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夢とは絶望の上に咲く花~鍵山秀三郎

マネジメント誌「衆知」

2017年05月01日 公開 2017年05月02日 更新

カサエル

PHP言志録

ユリウス・カエサルが著した『ガリア戦記』は、カエサル率いるローマ軍のガリア遠征の記録です。7年にわたる激闘の中で、圧巻の一つは、ガリアの若い総帥ウェルキンゲトリクスが八万の兵でたてこもる天然の要害アレシア城塞を、5万人のローマ軍が包囲した時。ガリア全土から集結した25万人の大軍が背後に迫ってきて、絶体絶命の状況に追い込まれます。

しかし、カエサルは狼狽えることなく、アレシア城塞を取り囲む要塞を短期間で築き、二正面作戦を展開します。三日三晩の激しい戦闘が続き、ローマ兵にはすでに武器も体力も残っていませんでした。

その時、カエサルは、真紅のマントを羽織ってみずから白馬にまたがり、前線に出て兵士を鼓舞しながら剣をふるいました。その姿を見て、ローマ兵はただの一人も逃げだすことなく、最後の力を振り絞り、戦い抜きました。カエサルはガリア平定という夢を叶えるため、全滅の危機に瀕しながら、薄氷の勝利を手にしたのです。

私が商売を始めた頃も、まさにそのような状況でした。当時、自動車部品の卸売業界は大変荒れており、悪しき商慣習が横行していました。

例えば、営業効率や物流コストを抑えるため、単品大量販売が主流でした。私は小売店のメリットを考えると、多品種少量販売がいいと考えましたが、問屋が過剰在庫を抱え経営が圧迫されるといって、取引銀行から強く反対されました。また、業界では約束手形が乱発され、過剰仕入れ、過剰在庫が大きな課題でした。それを改善すべく現金支払いを始めたところ、本来なら感謝されるべきメーカーから苦情がくる始末。四面楚歌の身でしたが、この業界をよくしたいという夢を決して諦めず、やがて多品種少量販売も現金支払いも実現するに至りました。

偉大な戦績を残したカエサルは、一方で一兵卒の顔色を窺うほどの気配りをする人でした。フランスの作家のラ・ロシュフコーは、「人生の平静を乱すのは大事件でなく、日常の些細な出来事である」という名言を残していますが、その言葉通り、私は夢を叶えるために、大きなことより、むしろ日常の些細なことを大切にしてきました。今なお印象に残っている出来事があります。

以前、大口取引先である地方のスーパーの担当者が約束の時間を守らないため、当社の営業マンが大変苦労しておりました。私からも本社の上層部に幾度も改善をお願いしましたが、「営業なのだから、そのくらいの些細なことは甘受すべきだ」と取り合ってくれません。そこで、「これは個人の問題ではなく、会社の方針なのですね。それでは、本日をもってお取引をやめさていただきます」と、毅然とした態度でお話ししました。先方は大変驚かれましたが、「問屋などは他にいくらでもあるから」という返事でした。ほどなくして、そのスーパーは経営不振となり、倒産してしまいました。日常の些細なことを疎かにした結果だと思います。

私は夢を実現するために、日常の些細なことを大切にしながら、薄氷を踏む思いで歩いてきました。一歩でも踏み外せば、絶望と破滅に陥る状況の連続でしたが、夢は一つひとつ叶えられてきたのです。

 

※本記事はマネジメント誌『衆知』2017年3・4月号「PHP言志録」に掲載したものです。

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