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なぜ人は不正を犯してしまうのか~鍵山秀三郎

『衆知』編集部

2016年09月30日 公開 2024年12月16日 更新

なぜ人は不正を犯してしまうのか~鍵山秀三郎

経営者の責任は重たい

最近、同じ会社が不祥事を繰り返す姿が見受けられます。なかには死亡事故を起こしながら、体制を改善しないうちに、また次の不祥事を起こすといった悪質な自動車会社もありました。また、不祥事を隠ぺいするという会社もあとを絶ちません。こうした現象はなぜ起きるのでしょう。

昔、こんな不祥事があったのを思い出します。それはある大手企業の話です。新任のトップが「不連続の連続に挑戦」という基本方針を打ち出しました。普通の努力をしていては成果が出たとしても連続した数字に留まる。そのような程度の努力ではなく、「不連続」に見えるような高い成果を目標にしようと無謀な計画を掲げたのでした。そこからその企業の営業は、過度なリスクをはらみながら、飛躍的に業績を伸ばしました。実績を上げた社員は評価されるので、どの社員も上司の顔色をうかがうようになっていきました。

ところが、最も実績のあった社員が、栄転したタイミングで突然、刑事事件で逮捕される事態になったのです。当時、大変な話題となりました。このような事件は、一人の経営者が方針を誤れば社風は一変し、悲劇が起こりうるという例に挙げられます。

こうした例からいえることは、部下は経営のモラルの是非よりも、いとも簡単に上司の評価を優先して行動してしまうということです。逮捕されてわれに返っても、取り返しはつきません。それだけ経営者の責任は重たいのです。大局の誤りは、小局の努力によってカバーすることはできないのです。

 

因果関係を想像できない人たち

最近も同様の事例に事欠かないのは、なぜでしょう。私は日本人のある気質が変化したからだと思っています。それは何かというと、こんなことをすればこうなるという、因果関係についての推察力が欠落していることです。

昔の人は、因果関係というものを非常に気にしていたものです。すなわち、「こんなことをすれば、きっと悪い結果を招く」といった恐れを抱いていました。

ところが、今の人たちは、すぐにわかるような嘘をついてしまう。そして見つかった時にどういう対処をすべきか、まるで思慮が及ばないのです。最悪なのは、嘘が露見した時に嘘を重ねるという場合です。経営者の小さな誤りが、収拾がつかずいつしか犯罪となってしまう。かつて業界のみならず国家を牽引してきた大会社の土台が揺らいでいるといった類の報道を見るのは残念なものです。

今さらながらこうした企業犯罪が増えてきた背景には、経営者としての人格と資質を正しく備えた人が少なくなったことがあるのではないでしょうか。本来、部下がモラルに外れた仕事をした場合に、断固として是正しなければならないのが経営者です。間違った見識がどんな不測の事態につながるのか、その怖さを察知し、予測して判断するのが役目なのです。

モラルを保ち、それを真の企業評価に結びつけて利益を上げることが大切なのに、売上と利益のみを優先するとモラルの低下を招き、企業の存在理由すら失ってしまいます。問題を把握する想像力が欠落しているのは、経営者として致命的だと私は思います。

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