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「ロスジェネ世代」の仕事観…3・11の衝撃

齋藤麻紀子(フリーライター)

2011年10月11日 公開 2022年12月26日 更新

「ロスジェネ世代」の仕事観…3・11の衝撃

遡ることいまから4年前、2007年1月1日、『朝日新聞』である連載が始まった。タイトルは「ロストジェネレーション――25~35歳」。

バブル経済崩壊後に大人になり、「就職氷河期」を経験した世代、言い換えれば、ひと世代前まで当たり前のように入ることができた"職場"という場所から弾き飛ばされた世代だ。

そんな彼らも、いまや働き盛りの30代を迎えている。

ロストジェネレーション世代(以下、ロスジェネ世代)でマスコミがフォーカスしがちなのは、厳しい就職戦線に敗れ、「ニート」や「フリーター」になった層だ。

しかし一方で、運よく職に就けた層も、ずっと"迷い"のなかにあった。40代の「バブル世代」ほどお金に執着もなければ、20代の「ゆとり世代」ほどプライベート重視でもない。

「何のために仕事をするのか」という漠然とした疑問を抱え、彷徨ってきた世代である。だが今回の震災を機に、その解を見出そうとしているロスジェネ世代もいる。被災地の取材で出会った3人の仕事観に迫った。

 

利益を出しながら人の役に立てないか

ロスジェネ世代の一人・川田信夫さん(仮名/35歳)は、仙台にある大手IT関連企業の子会社に勤めている。「最初に内定をもらった」という理由で入社して以降、一度も転職していない。

「会社以外の世界を知らない、平凡なサラリーマンです」

川田さんは、自分のことをそう表現する。だがフリーターやニートを多く生み出したロスジェネ世代のなかでは、川田さんは数少ない"勝ち組"だ。

しかし、そんな川田さんにも悩みがあった。仕事を通じて人の役に立っているとの実感が、これまで味わえなかったという。

川田さんは、1年前までSE(システム・エンジニア)をしていた。仕事は、クライアントの要望に沿ってシステムを構築・改善すること。

しかしながら、要望に応えられないことも多かった。利益が出ないからだ。また要望によっては、ライバル会社の製品のほうがマッチすることもある。

でも、そんなことは口が裂けてもいえない。もちろん、自社の利益を確保するためだ。

利益を出しながら、人の役に立つことはできないものか――。

希望の会社に行くことよりも、内定をもらうことを優先した就職戦線。そんなたいへんな時代に大企業に就職できた川田さんの悩みは、"贅沢な悩み"なのかもしれない。

事実、川田さんも「営利団体である以上、利益を優先するのは当然のこと」と自分に言い聞かせてきた。

そんなある日、今回の震災に遭遇。知人のなかには、津波被害で避難所暮らしになった人もいる。それどころか、死に瀕した人びとが、県内のみならずたくさんいる。

「何か、しなければ!」

川田さんは焦った。しかし震災後、経営陣が真っ先に行なった仕事は、"売上げ&利益計画の修正"。多くの取引先が被災したため、財務状況にどの程度の影響が及ぶか、計算を始めたのだ。経営陣の興味対象は、やっぱりお金だった。

「営利団体なんだから、当然じゃないか」

川田さんはいつものように自分に言い聞かせたが、今回ばかりは腑に落ちない。

震災後、初めての出社日となった3月14日、デスクでパソコンに向かう自分に、猛烈な罪悪感が押し寄せた。サラリーマンである自分に、初めて疑問をもった。

そこで、「困っている人の役に立ちたい」と、会社を休んで物資運搬のボランティアに行った。誰にでもできる単純作業だったが、人の役に立てているとの喜びがあった。そのせいか、心も少しだけ落ち着いた。

さらに数日後、会社が地元復興プロジェクトを発足したという連絡が入る。震災直後は"経営計画の修正"に躍起になっていた役員だが、地元のためにひと肌脱ぐことを決めたのだという。

偶然にも、川田さんはプロジェクト・メンバーに選ばれた。さらに、気持ちが落ち着いた。

「この会社にいれば、仕事を通じて地元に貢献できる。プロジェクトへの参加は、『やっぱり、この会社で頑張ろう』と思えるきっかけになりましたね」

そしていま、仕事と利益との関係に思い悩んできた川田さんがビジネスの本質をみているのは、意外にも"儲け度外視でラーメンをつくる頑固おやじ"の存在だという。

「甘い考えかもしれませんが、利益の大きさとは、つまりはお客さんへの思いやりの大きさなのではないか、と考えるようになったんです」

 何のために仕事をするのか――迷いのなかにあった川田さんはいま、“営利団体が提供できる思いやり”について考えている。

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つねにアウトプットする"生産者"に私はなりたい

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