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金融資本主義を過信した「戦後世代」、疑問を抱く「ミレニアル世代」

出雲充(株式会社ユーグレナ社長)

2021年02月28日 公開 2022年12月19日 更新

金融資本主義を過信した「戦後世代」、疑問を抱く「ミレニアル世代」

2008年に起きたリーマンショックは、“資本主義経済”への不信感を世界に与えた。さらに、広がる格差や、止まらない環境破壊。追い打ちをかけるように新型コロナウイルス感染症の影響によるパンデミックが起こり、社会は新たな方向へ進んでいるように見える。

ユーグレナを活用した食品事業やバイオ燃料事業を行う株式会社ユーグレナ社長の出雲充氏は、著書のなかでミレニアル世代こそが持続可能な社会を先導し、“2025年”を境に大変化が起こると予想する。

2000年以降に成人を迎えた世代を指す“ミレニアル世代”に、どのような希望が持てるのだろうか。

※本稿は、出雲充 著『サステナブルビジネス――「持続可能性」で判断し、行動する会社へ』(PHP研究所)より、内容を一部を抜粋・編集したものです。

 

アメリカの大学生を変えたリーマンショック

私はこれまでの資本主義では、早晩、世界経済は立ちゆかなくなると考えています。

これまでの資本主義とは、とにかく儲けることができれば、自ずと様々な問題も自然に解決されるという非常にシンプルで楽天的な資本主義のことです。誰にとってもわかりやすいことから、世界の中心的な考え方の一つとなっています。

ただ、欲を肯定するあまり、強欲とも呼べるまでに突き進んでしまい、行くところまで行って、2008年、リーマンショックでとうとう行き詰まり破綻した。私はそう認識しています。

こうした認識に至ったのは、実は私だけではありません。アメリカの大学生の多くも、同じように考えたという調査結果があります。

アメリカでリーマンショック後、アメリカの大学生に対して大規模なアンケート調査を行いました。その結果、アメリカの大学生の半分以上、つまり過半数の人たちが次のように答えたのです。

「現在の資本主義をこのまま続けていくことには無理がある」
「自分は、資本主義よりも社会主義のほうに親近感をもつ」
「新しい、これまでとは違った資本主義の考え方が必要とされている」

金融資本主義の中心地、ウォールストリートを抱えるアメリカの大学生ですら、リーマンショックを目の当たりにして、「このままではダメだ」「今の延長線上に明るい未来はない」と考えていることをこの調査結果で知り、私も彼らも同じような考えだと勇気がわきました。

その後、民主党の大統領候補を決める予備選挙において、2016年、2020年ともに、左派のバーニー・サンダース氏が、最終的には大統領候補にはなれませんでしたが、最終候補の一歩手前まで残りました。

これは、国民皆保険制度の設立や公立大学の授業料の無償化、学生ローンの返済免除、社会保障給付金の拡大など、ソーシャルな政策の実現を公約として掲げてきたサンダース氏を、大学生を中心とした若者たちが、強く支持したからです。

サンダース氏への評価は、「極端な左派」であり、「民主社会主義者」という呼ばれ方さえもされます。いわば一般的なアメリカ国民からすれば極端な思想をもつ「キワモノ」の一人です。しかし、多くの若者たちは、その「キワモノ」の熱狂的ファンとなりました。

その一方で、サンダース氏は「キワモノ」であるがゆえにアンチファンも多いため、民主党の大統領候補にはとうとうなれませんでした。ただ、私に言わせれば、サンダース氏は少し早すぎただけです。

若者たち──ミレニアル世代が過半数か、それに近い人数になる次の2024年、確実に過半数となっているその次の2028年の大統領選挙に立候補すれば、民主党の大統領候補となり、ひょっとしたらアメリカ合衆国大統領になれるかもしれないと考えています。

もちろん、サンダース氏は2020年時点で79歳なので、現実的には「次」はないのかもしれませんが、その場合には、若いミレニアル世代が支持したくなる「第二、第三のサンダース」が出てくることでしょう。

そしてアメリカの大統領が、金融資本主義を標榜するトランプ前大統領とは真逆の考え方や価値観の人になる可能性は、十二分にあるのではないでしょうか。

 

ミレニアル世代とはどんな世代か?

私は、ミレニアル世代が世界の生産年齢人口の過半数を占める2025年までに、これまでの資本主義のビジネスから、ソーシャルビジネスやサステナブルビジネスが主流となる持続可能な社会へと世界は大きく変化すると考えています。

それはなぜなのか。その理由について説明する前に、まずはミレニアル世代とはどういう世代なのかについて述べておきましょう。

ミレニアル世代とは、一般的に2000年以降に成人した世代を指します。私は1980年生まれなので、成人したのが2000年、まさにミレニアル世代の一人です。

ミレニアル世代は、アナログ社会を知る最後の世代であり、アナログ社会からデジタル社会への変遷を幼少期に経験した世代です。デジタルネイティブの最初の世代とも言われています。

こうしたことからデジタル機器やインターネットといったIT技術も特別な存在ではなく、普通に誰の身の周りにもある技術だと感じて成長してきました。使いこなすのが当たり前であり、IT技術などのテクノロジーによって、生活の質が向上することも当たり前だと考えています。

そのための技術革新を担うのも、画期的な製品やサービスを開発するのも、自分たちミレニアル世代だと自負しています。ミレニアル世代には、自分たちが新しい価値をつくる、明るい未来をつくるという意識が強くあるのです。

たとえば、カーシェアリングやシェアハウスなどのシェアリングエコノミーが急成長を遂げていますが、この「シェア(共有)」という価値観を大切にするのも、ミレニアル世代の特徴の一つです。

それ以前の世代は「所有」することにこだわり、所有する「もの」にステイタスを感じていました。そのため「物欲を満たす」ことが重要な価値観の一つでした。

これに対し、ミレニアル世代は「所有」することにこだわりません。上手く便利に利用できれば「シェア」でいい、と思っています。

また、これまでの資本主義によって経済格差がどんどん広がっていく現実もミレニアル世代はつぶさに見てきました。貧困層がその貧しさからなかなか抜け出すことができない一方、富裕層はさらに富み、豊かになっています。

事実、世界のトップ10%の富裕層が、世界全体の富の約82%を保有するまでに格差は拡大しています(2019年10月クレディ・スイス発表)。

そして、近年、気候変動が叫ばれる中、世界各地で起きるハリケーンや台風、長雨による洪水、日照りによる干ばつ、森林火災などによる大きな被害を目にしない年はありません。もちろん、実際に災害に見舞われたミレニアル世代も大勢います。

こうした経験から、これまでの資本主義に対して非常に懐疑的であり、「もの」が豊かにある大量生産・大量消費の使い捨て社会ではなく、シェアリングや地球環境を大切にする持続可能な社会を目指す傾向が、ミレニアル世代にはあるのです。

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