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占守島の戦い、少年戦車兵の証言~「どこでもいいから撃て。乱射せい」

相原秀起(北海道新聞函館支社報道部長)

2017年08月04日 公開 2022年02月07日 更新

占守島の戦い、少年戦車兵の証言~「どこでもいいから撃て。乱射せい」


いまも占守島の四嶺山の山麓に残る日本軍の97式中戦車改(写真提供:相原秀起氏)
 

終戦後の昭和20年8月17日深夜。ソ連は千島、北海道の占領をめざし、千島列島北東端の占守島への侵攻を開始する。この暴挙に対し、日本軍は敢然と反撃。結果、約300名の戦死者を出すものの、ソ連軍には約3000名の損害を与え、侵攻を足止めした。相原秀起著『一九四五 占守島の真実』(PHP新書)は、この日本軍最後の戦いを綿密な取材で描く迫真の記録である。本記事では、その一部を抜粋編集したものである。

 

「どこでもいいから撃て。乱射せい」

小田英孝(旧陸軍元少年戦車兵)は戦車前方の車載機関銃を握っていた。だが、周囲は低木のハンノキやハイマツが茂り、小さな覗き窓から前を確認しようとしたが、木々の枝が視界を遮り、何も見えなかった。併走しているはずの第四中隊の他の戦車の位置もまったくわからなかった。97式車載重機関銃は20発入り箱弾倉(カートリッジ)を使用する。撃発機構は単、連発を手加減で行う引金式を採用し、引き金を引きっぱなしにすると連射が可能だった。ところが、1回に発射する弾数を多くすると、照準線が乱れて次第に弾は狙いを大きくずれるという欠点があった。連続発射の限度は約300発とされ、それ以上の連続発射は銃身が過熱して焼けつく危険性もあった。このため、銃手は引き金を一度絞っては離し、一度に3~5発ずつ発射する「点射」を心がけた。

伊藤は「弾薬は豊富にある。万一、戦闘になったら弾薬のことは遠慮せずに撃ちまくれ」と常に訓示していた。機関銃弾のカートリッジ75個は機銃の近くに並んで差し込まれ、床下に置かれたものも含めて、機銃弾の総数は約4000発にも達した。

小田にとっては初の実戦だったが、不安は感じなかった。戦車帽をしっかりとかぶった。

戦車第11連隊にとって初めての本格的な戦闘が、当初の「仮想敵国」のソ連軍と満洲の平原ではなく、この北千島で相対することになったのも運命のいたずらと言えた。

小田からはハンノキが遮って前が何も見えなかったが、一段高い砲塔にいた車長兼砲手の宮沢は周囲が良く見えた。軽戦車の車長には座席はなく、立ったまま指揮を執り、肩から上を砲塔のハッチから出して周囲をうかがい、操縦手の金谷に向かう方向を指示した。言葉だけでは騒音で聞き取れないため、右に旋回する場合は操縦手の右肩を足先で蹴り、左旋回は左肩を蹴った。急停止は後頭部を小突くのが合図だった。現在の戦車のような防音対策などもなく、小さな戦車内の3分の2はエンジンが占拠していた。

操縦手の左右には、現在の自動車のサイドブレーキのようなレバーがあり、「操向制動連動機」と呼ばれ、レバーはクラッチとブレーキに連結されていた。手前に半分だけ引くと半クラッチ状態となり、さらに引くとブレーキが掛る。左右それぞれが、左と右のキャタピラを制御しており、例えば右のレバーだけをいっぱいに引くと、左側のキャタピラだけが駆動するため、戦車は右旋回した。

軽戦車は通常の道を走るだけならば、操縦は難しくなかったが、戦闘中の操縦は高度の技術を要した。敵の砲弾を回避しながら、自車から発射する砲弾の命中率を高めるために安定走行をしなければならないからだ。

宮沢は中隊を代表する射撃の名手だった。37ミリ砲を肩に担ぎ、体を動かして砲に備え付けられた照準用の眼鏡を覗き込み、真ん中の十字に照準を合わせ、引き金を絞り、次々に砲弾を放った。「スターン」というかすかな音が砲塔内に響いた。「小田。なにやっている。撃て、撃て」宮沢は怒鳴った。
「敵が見えません」
「見えなくてもいい。前は全部敵だらけだ。撃て。どこでもいいから撃て。乱射せい」
その声に応えて、小田は車載銃を右から左へ、左から右へと振り向けながら機銃弾を放った。
「当たっている。当たっている。そのまま撃て、撃て」
宮沢の絶叫が聞こえた。

キャタピラによってずたずたに折られた枝が吹き飛び、戦車に踏みつぶされたソ連兵の体がちぎれて飛んだ。狭い軽戦車内は砲煙と機銃の白い硝煙が充満して、小田は喉がひりひりし、目も痛かった。足元には砲弾と機銃弾の空薬莢がバラバラとはねて転がった。

ソ連軍の小銃弾が戦車の装甲を削り、火花とともに細かな鉄粉が飛び散った。それが小窓から飛び込んで硝煙の煙と入り混じって目に入り、痛くて、小田は何度も目をしばたたかせた。

小田は「戦争とはこんなに息苦しいものなのか」と思った。

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