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社会

早稲田大学総長・鎌田薫 正解がない問題に果敢に挑戦する人を育てる

高井昌史の教育改革対談

2017年12月18日 公開 2017年12月18日 更新

人間力を形成するための留学生政策

高井 国立大学が入試に記述式問題を採用できるのは、私学にくらべ入学定員が少ないという事情もあるのでしょうが、早稲田には非常に影響力があります。早稲田がやれば他の大学もついてくるはずですから、ぜひ入試改革を進めていただきたいと思います。

鎌田 ありがとうございます。早稲田は、大学で勉強したこととは違う世界で活躍する人もたくさん生んできました。演劇人がそうですし、小説家もそうでしょう。いろいろな個性を持った人たちがぶつかり合って、自分を磨く。その多様性に満ちた空間であることが非常に大きな意味を持ってきました。ところが今、早稲田は首都圏出身者が七割で、地方から来る人は三割になっています。そこで、今後も多様な人たちがぶつかり合う大学であり続けるために、地方出身学生や社会人と並んで、留学生も数多く受け入れ、留学に行くことも奨励しています。外国人留学生と日本人学生が議論したり、海外に行って日本とは全く違う世界を見たりする。そういうことを繰り返すことで、外国語をマスターするだけでなく、グローバル社会を牽引するための真の意味での人間力を形成できるのではないかと思っています。

高井 外国人留学生の数は早稲田が日本一で、平成17年に1616人だったのが、平成29年は5400人にまで増えたそうですね。そうなると学部にもかなり留学生がいるのでは?

鎌田 はい。早稲田の外国人留学生は、100カ国以上から、5400人以上在籍し、その約半分が学部生です。東大の場合、4000人近い留学生のうち、学部には400人程度しかいません。そこが大きな違いで、早稲田では学部の教室内で日本人と外国人が意見を交わし、サークルで一緒に議論しています。それは非常に恵まれた環境だと思います。

高井 もうそこまでグローバル化しているのですね。友だちに欧米出身者やアジア各国の出身者がいて、彼らと一緒に世の中に出れば、これは非常に強い社会ができると思うのです。日本企業の側から見れば、もっと留学生に門戸を開いて採用すればいいのでしょうが、まだ企業は閉鎖的だと感じます。

鎌田 おっしゃる通りです。海外からの留学生はチャレンジ精神が旺盛ですし、たいてい母国語、英語、日本語ができる即戦力ということで、IT系など一部の企業には非常に歓迎されるものの、それ以外はなかなか門戸を開いてくれていません。日本からの海外留学生の就職事情も同様で、早稲田では約4割の学生が在学中に一度は海外での学びを体験するのですが、日本で普通に就職活動をすると、留学したメリットがなかなか活かされないようです。

高井 日本の会社の中にもグローバル化している企業はかなりあって、私どもの会社でも、外国籍の社員が1000人ほど海外子会社にいます。今は給与体系が国によって違いますが、いずれ人事政策もグローバル化を進めないといけないと考えています。しかし、外国人留学生がそれだけ増えているのならば、日本で仕事をしてキャリアを積んでから母国に帰って活躍する学生も多いのではないでしょうか。

鎌田 そうですね。海外に進出している日本企業は、外国から日本に来てきちんと勉強し、修業を積んで母国に帰って活躍する人材を求めています。彼らは母国のことはもちろん、日本人の感覚や考え方、日本のビジネス慣習もよく理解していますからね。同時に、彼らが母国に帰って政財界のリーダーになれば、政府間交渉よりも早く相互理解が深まっていくはずです。それを考えると、留学生に日本のよさをしっかり体得して、好印象を持って帰国してもらう環境を整える責任が大学にはあると思います。

高井 アメリカのアイビー・リーグ出身の学生たちが、卒業後にビジネスで成功しているのは、もちろん熱心に勉強したからでしょうが、人脈の力も大きいですよね。友だちだからという理由で仕事でもつながっていきますし、今後は早稲田でも同様のつながりが今まで以上に強くなると思うのです。

※本記事は、マネジメント誌「衆知」2017年9-10月号掲載《高井昌史の 教育改革対談》の一部を抜粋編集したものです。

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