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早稲田大学総長・鎌田薫 正解がない問題に果敢に挑戦する人を育てる

高井昌史の教育改革対談

2017年12月18日 公開 2017年12月18日 更新

早稲田大学総長・鎌田薫 正解がない問題に果敢に挑戦する人を育てる

労働人口減少やグローバル化の進行で、企業はより優秀な人材の確保に奔走する。一方で送り出す側の大学も、入学者選抜・カリキュラム・国際交流などで独自性を打ち出し、個性豊かな人材育成に力を注ぎ始めた。日本の将来を決める学校教育の現場は、今どう変わろうとしているのか――早稲田大学の取り組みを鎌田薫総長に聞いた。


 

鎌田薫(早稲田大学総長)
かまた・かおる*1948年静岡県生まれ。1970年早稲田大学法学部卒業。助手、講師、助教授を経て、1983年早稲田大学法学部教授。2010年早稲田大学総長就任。Waseda Vision 150の実現に取り組むほか、学外でも教育再生実行会議の座長等多くの役職を務め、21世紀の日本にふさわしい教育への提言をすすめる。2016年より日本私立大学連盟会長。

高井昌史(紀伊國屋書店会長兼社長)
たかい・まさし*1947年東京都生まれ。成蹊大学法学部政治学科卒業。1971年株式会社紀伊國屋書店に入社。1993年取締役。1999年常務取締役、2004年専務取締役、2006年副社長を経て、2008年代表取締役社長に就任。2015年より会長を兼務。著書・編書に『本の力』『日本人が忘れてはいけないこと 国の礎は教育にあり』(ともにPHP研究所)がある。

取材・構成:江森  孝
写真撮影:長谷川博一
 

社会の変化に合わせ大学入試改革を提言

高井 今日はありがとうございます。このシリーズのトップバッターとして鎌田総長にご登場願おうということで、今日の機会をいただきました。

鎌田 大変光栄です。こちらこそよろしくお願いします。

高井 総長は芝居がとてもお好きで、昨年も紀伊國屋ホールでの「熱海殺人事件」をご覧いただきました。総長が学生だった頃から、早稲田は実に多くの演劇関係者を輩出していますね。

鎌田 そうですね。私と比較的近い世代だけでも、鈴木忠志、佐藤信、吉永小百合、大和田伸也など、いろいろなタイプの演劇人が出ているのが早稲田の魅力の一つで、今後も続いてほしいと思っています。

高井 学生時代から多くのお芝居を観られたそうですが、その後の研究や総長としての仕事にも役立ったことがあるのではないですか。

鎌田 そうかもしれません。今はAIとかIoTが流行りですが、そういう時代になればなるほど、教育研究面でも、早稲田の伝統である「人間らしさ」を常に忘れないことが重要だと痛感しています。中学から高校・大学までは、自分の可能性の限界に挑戦できる、限られた貴重な時間です。われわれも、学生の個性を最大限に伸ばせる教育機関を目指していければと思っています。

高井 中学、高校の話が出ましたが、総長は総理直属の教育再生実行会議の座長として、平成二十五年に高大接続や入試改革などを盛り込んだ第4次提言を公にされました。

鎌田 大学入試を抜本的に変えるという提言だったため、世間の注目を集めましたが、その背景にある考え方を説明したのが平成27年の第7次提言です。これから世の中はどんどん変化していきます。平成23年に小学校に入った子供たちの65パーセントは大学卒業後に今はまだ存在しない職業に就く、あるいは今後10年、20年で、今ある職業の半分はなくなるともいわれています。

したがって、これからは従来と同じような知識を身につけるだけでは、生きていけなくなると思います。誰もまだ正解を出していない問題に対して、自分で手がかりを見つけ出し、仮説を立てて検証し、実行していくことが求められます。また、そうやって知恵を出しつつ多様な価値観を持つ人々のリーダーになるためには、総合的な人間力を備えることも必要です。

ところが現状は、中学までは自由に議論させてみずから考えさせる教育に変わりつつあるものの、高校になると急に他人と違うことを言わなくなります。それは、「独自の考えを模索する時間があるなら受験勉強をしろ」という風潮がいまだ強いからです。

いい大学に入れないと、いい人生を歩めないというスキームは昔から変わりませんし、偏差値で序列が決まるために、大学に進学しない高校生や、偏差値の伸び悩む高校生が「自分は駄目な人間だ」と考えてしまう。このような自己肯定感のない高校生が半分以上を占めているのは、世界でも特異といえます。

高井 文部科学省は、大学入試センター試験に代え、平成32年度から記述式問題を含む新しいテストに変えようとされているのですね。最近、中学の伝統校の中には、多く読書をする子が解けるような記述式の問題を入試に取り入れているところもあると聞きます。それに合わせて高校入試も変え、さらに大学入試の改革もぜひ実現していただきたい。総長と私は団塊の世代で、当時は早稲田の受験生は今よりずっと多かったはずですが、記述式問題もありました。記述式だと先生方の採点が大変でできないといわれますが、昔はやっていましたよね。

鎌田 そうです。早稲田の場合、学部によって違いはあるものの当時の受験生は今の倍はいましたし、昭和40年までは面接もありました。文章を書くと、ものを考える力がつきます。それが記述式問題のいいところなのですが、もう一ついいのは、多様な答えが許容されること。記述式問題の導入への抵抗が強いのは、高井社長がおっしゃるように採点に手間暇がかかるのと、採点者によって得点に差が生じることに対する懸念が理由です。マークシート方式は、採点効率はよいのですが、正解が唯一無二であることを前提にしています。ところが先ほども申し上げたように、これからの時代は、唯一無二の正解など存在しない問題にどう取り組むかを教育の中心に据える必要があります。そのためには、もっと総合的で多角的な視点からの学習を促す入学者選抜制度に切り替えることが不可欠だと提言したわけです。
 

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