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マリー・アントワネットは「パンがなければ、お菓子を…」なんて言ってない!

2017年12月19日 公開

堀江宏樹(作家)

マリーアントワネット

マリー・アントワネット(1755 −1793)
フランス国王ルイ16世の妃。15歳でオーストリアフランスに嫁ぐ。ヴェルサイユ宮殿での華麗な暮らしは1789年のフランス革命勃発後に一転、幽閉生活に。93年、国家反逆罪で処刑されるが、気品ある最期を遂げる。
 

有名なあの名言はウソだった?

嫌われ者のアントワネット

フランス革命前の最後の王妃マリー・アントワネット。国王一家を中心とした、ヴェルサイユ宮殿での華麗なる宮廷生活は、フランスから他国に亡命した貴族だけでなく、当地を訪れたことのある各国の客人たちにとっても、わすれがたい甘美な記憶として、革命後も長く語り継がれました。

浮き世離れした贅沢な日々だったようですが、アントワネットが「パンがなければ……」という発言をした歴史的な裏付けは一切ありません。きらびやかな王妃のイメージが一人歩きしすぎた結果が、この言葉に集約されている感がありますね。

彼女が生きた18世紀末のフランスでは天候不順による凶作が続いていました。

天候不順という、解決できるのは神様くらいしかいない問題に対する不満のはけ口に、「なぜか」されてしまったのが、不幸にもアントワネットでした。

彼女の振る舞いに問題がなかったとはとてもいえません。凶作が続いている時期でも、アントワネットの年間服飾費は、現代日本の貨幣価値にして、なんと数億円~数十億円規模だったそうです。さらに彼女はフランスにとっては「敵国」のひとつ、オーストリアから嫁いできた身の上で、何かあるたびに「外国人女」「オーストリア女」と陰口を叩かれていましたから。

「パンがなければ……」の「名言」は、アントワネットのものではないのに、彼女の言葉だと容易に信じられてしまうほど、彼女はフランスで嫌われていたということです。

実は「パンが……」の名言には様々な起源説があります。ジャン・ジャック・ルソーが自伝にあたる『告白』という著作に、1740年頃、家庭教師をしていた時の話として、食事なのにパンがないと気づき「あること」を思い出したと書いているのです。

それははるか昔、「農民にはパンがない」といわれた、さる高貴な女性が「それなら(パンより豪勢な材料を使った)ブリオッシュを食べたら良い」と、不謹慎なジョークを言ってしまったというエピソードです。

アントワネットが生まれたのは1775年ですから、当然彼女には無関係のずっと昔の話だったのですが……。
 

「私は浪費などしたことがありません」

ルイ16世との結婚当初は庶民たちから愛されていたアントワネットが、一変して酷く憎まれるようになった詳細な経緯は省きますが、その原因のひとつには彼女が伝統的なルールに対し、冷淡だったことがあげられるでしょう。

たとえば、当時のフランス王家には奇妙な習慣がありました。浮気や離婚が御法度であるカトリック信者のフランス国王ですが、王妃(正室)の承認があれば、王妃の他に一人だけ公式寵妃(側室)を持てるというものです。

公式寵妃には贅沢三昧の生活を送ることで、フランス国王の力を他国に誇示し、国王一家への批判を「悪役」としてかぶる役割がありました。しかし、まるで公式寵妃のような豪華な生活を、アントワネット王妃本人が送ったため、彼女への批判が高まってしまったのです。

意外かもしれませんが、ヴェルサイユ時代のアントワネットは「吝嗇家」つまり「ケチ」で有名でした。侍女だったカンパン夫人によると他の王族のように贈答品に金を使わなかったそうです。望まない贈り物をされた場合、礼儀として品物は受け取るが返礼の品など絶対に贈らないのが彼女の行動原理でした。

その一方、年間で100着以上ものドレスを新調していた時期もあり、金の使い方にメリハリがありすぎました。当時のフランス上流社会の人々に、そんな彼女の考えは理解できないものだったのです。

後年、アントワネットは革命政府に捕縛され、浪費を責められましたが「私は浪費などしたことがありません」と真顔で答えています。私は「宮廷の華」であるべき王妃としての職分を果たしたまで……彼女にすればそう言いたかったのかもしれませんが。

※本記事は、堀江宏樹著『偉人はそこまで言ってない』(PHP文庫)より一部を抜粋編集したものです。

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