年のはじめに~松下幸之助
2014年01月01日 公開 2024年12月16日 更新
この日この朝
心静かに年が明けて、心静かに新年の計を立てる。まずはめでたい新春の朝である。
ゆく年の疲れをいやしつつ、去りし日の喜びを再びかみしめている人もあろうし、あるいは過ぎし年の憂き事にしばしの感慨をおぼえている人もあろう。
人はさまざま。人のさだめもその歩みもまたさまざま。さまざまななかに、さまざまな計が立てられる。
そんななかでも大事なことは、ことしは去年のままであってはならないということ、きょうは昨日のままであってはならないということ、そして明日はきょうのままであってはならないということである。万物は日に新た。人の営みもまた、天地とともに日に新たでなければならない。
憂き事の感慨はしばしにとどめ、去りし日の喜びは、これをさらに大きな喜びに変えよう。立ちどまってはならない。きょうの営みの上に明日の工夫を、明日の工夫の上に、あさっての新たな思いを。そんな新鮮な心を持ちつづけたい。そんな思いで、この日この朝を迎えたい。
心のカ
ウルシにかぶれやすい人がいる。その人に眼をつぶってもらって、柿の葉でサラサラと手をなで「ウルシの葉にさわったよ」と言う。と、たちまち全身にかぶれの現象が起こってきて、その人はもがき苦しむという。心に思ったことが、そのまま形にあらわれてくる一つの例であろう。
心の作用というものは不思議なものである。“なせばなる”ということも“ならぬは人のなさぬなりけり”ということも、単に精神主義とだけでは片づけられない人間の本質の一面をついているように思われる。
この不思議な心の作用も、昨今のようにこうも物が豊富になってくると、いつしか物のみにもたれてしまって、心の力が力として働いてこないようになりがちである。いうなれば喪心である。
心があって物があって、その心の力が物の力を支配して、はじめて人としての真のゆたかさが生まれてくる。物心一加か心物一加か、いずれにしてもせっかくのこの人間の心の力を、もっともっと認識し直したい。この年のはじめに、シャンとしてもう一度考え直してみたい。
《 松下幸之助著『続・道をひらく』より 》
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続・道をひらく
松下幸之助 著
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