「三次元の読みを駆使する、四次元の棋士」 師匠が分析する藤井聡太の強さ
2018年02月18日 公開 2020年01月24日 更新
二次元の将棋盤に対して三次元で考え抜く
藤井の指す将棋は、非常に立体的です。
将棋のマス目は縦九× 横九ですが、藤井の場合はイメージ的に「高さ」が加わります。
平面ではなく、三マスぐらいの高さがあるように見えます。
「縦九× 横九× 高さ三」。瞬間的に将棋盤が盤上から数センチ浮いているようにさえ見えます。もちろん現実的にそんなことはなく、あくまで私の主観的なイメージです。
言葉を換えると、読みが三次元的です。
藤井の将棋は対角線、斜めのラインを強く意識させます。本人はおそらく意識していないと思いますが、藤井の強さの源には、この「斜めの多用」があります。
「駒に角度がある」と私は表現しています。具体的には角と桂馬の使い方が抜群にうまい。
将棋の駒の中では、真正面に進めない2つです。桂馬は斜め上方に進むという動きをします。角も斜めのラインを進むので、イメージ的には立体的に動き、縦と横という直角に進む飛車よりも空間をより利用します。
人間の目は、斜めからの動きには対応しにくいのではないでしょうか。車を運転していても対向車の動きは視野に入ってきますが、右折や左折をしてくる車には意識が向きにくい。将棋も同様で、斜めの動きはプロでもいくぶん読みづらいのです。
だから、初心者は角筋をけっこう間違えます。9七にいる角がどのラインを通り、最後にどこに行き着くか。プロは角筋を間違えるわけではありませんが、その威力を把握し損ねるときがあります。
まず、斜めだから視覚的に見づらい。角は斜めに動けるとはいえ、前と横に駒があると、空間的にはその狭い駒の間を縫っていきます。
桂馬も斜め上方に飛ぶときは、周りにある「障害物」を超えて飛ぶ。私のイメージでは三次元的な飛び方です。私が藤井の将棋を「空中サーカス」と表現するゆえんです。
これに対して、前後左右に一つしか動けない駒は、見たままの動きです。飛車は動ける道が縦横に空いているので、より長く動けます。
飛車の道筋は一直線なので、先の狙いはだいたい一種類です。途中に2つの狙いがあることは構造上ありません。飛車が1九にあれば1一まで効いていますが、仮に1九の飛車が1三にある相手の駒を狙っていたら、その奥の1一や1二まで狙うことはありません。
一方、角が9七にあれば、5三、4二、3一と狙いがある場合が多い。加えるなら、前述の箇所に相手の駒がない場合でも、そこに自分の駒を打つという方法で攻撃できるのが角の特徴です。さらに、角はたとえば6六にいれば右は3三、左は9三という具合に左右に利かすことができます。
藤井の強さの理由はこれまでさまざまに論じられてきましたが、その中に幼いころ熱中した「キュボロ」(立体の迷路をつくってビー玉を転がすスイス製の木製立体パズル)や「迷路づくり」を挙げる記事がありました。
それらが藤井の三次元思考にどれだけ寄与したかはわかりませんが、私の考えでは、それよりもむしろ、迷路を書こうとしたり立体パズルをつくろうとしたりする発想と意欲をいかに養えるかが大事だと思います。
棋士には、よくその人の棋風や特徴を言い表したキャッチフレーズがつけられます。「神武以来の天才」(加藤一二三)、「光速の寄せ」(谷川浩司) 、「羽生マジック」(羽生善治)などです。
藤井のキャッチフレーズはまだ固まっていませんが、もしも私がつけるなら、「三次元の読み」か「四次元の棋士」でしょうか。
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弱い駒をうまく使いこなすことが勝負を制す1つのカギ