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日本経済 起死回生のストーリー



2012年01月05日 公開

ロバート・アラン フェルドマン / 財部誠一

《『日本経済 起死回生のストーリー』より 》

 

グリーン・テクノロジーでビジネス大国に

現在の技術だけでもスマートグリッドは実現できる ◇ 財部

 グリーン・テクノロジーというと、よく出てくるのがスマートグリッドやスマートシティの話です。私たち日本人が認識すべきは、日本社会にはすでにスマート化されている部分がたくさんあるということです。

 たとえば東日本大震災のとき、ガス爆発はまったくといっていいほど起こりませんでした。これはガス会社が設置したメーターが、自動的に各家庭へのガス供給をストップさせたからです。これにより、あれほどの大地震でありながら、ガス爆発ゼロという奇跡が起きたのです。

 しかも安全が確認されたら、またすぐガス供給を始めた。このガス会社のメーターに通信機能を付ければ、もうスマートメーターになります。電力だけを見ると遠い未来の話に思えますが、ガスも合わせて考えれば、すぐにもスマートグリッドは実現するのです。

 このあたりの自己認識が日本人は非常に不足しています。たしかに東京電力は今回、大変なミスを犯しました。しかし日本がこれまで発電にせよ送電にせよ素晴らしいシステムをつくってきたことは間違いありません。これだけ電力が安定している国はほかになく、そういう長所をしっかり見て、その強みを生かす発想をまず大前提にすべきです。極端にいえば革新的な技術開発がなくても、すでにあるノウハウをきちんと体系化し、組み合わせるだけで、日本には海外に輸出できる技術がいくらでもあるのです。

 そのために決定的に変えるべきなのが、明治以来の価値観です。これまでの日本の発想は明治の成功体験によって生まれた「国と財閥や大企業が一体となった技術開発こそ日本の発展につながる」というものでした。驚くべきことに今日に至っても、この価値観から抜け出していません。

 スマートグリッドもそうで、現在のスマートグリッドに関する議論は全部、“川上”からの発想です。グリーン・テクノロジーの開発もパナソニックや東芝、日立などの大企業だけを集めてやろうとします。スマートシティをつくる際も、各業界を代表するトップブランドだけを集めます。もちろんそういう取り組みもあっていいのですが、国が直接関わらない、あるいは大企業によらない試みも重要です。

 たとえば家電量販店のヤマダ電機では、個人の住宅にスマートグリッドを取り入れる試みを始めています。ヤマダ電機は流通業者ですが、日本ではこれまで製造業者のほうが格上で、流通業者は格下という雰囲気で扱われてきました。その流通業者であるヤマダ電機がスマートグリッドの世界に進出しているのです。

 ヤマダ電機は2011年8月に、エス・バイ・エルという住宅メーカーを子会社化しました。その理由を山田昇会長に尋ねたところ、じつに驚くべき話が返ってきました。いま日本では、すでにある太陽光パネル、蓄電池、エコキュート(自然冷媒ヒートポンプ給湯器)、税の優遇制度などをそのまま組み合わせるだけで、各家庭の電力消費を15パーセントから20パーセント節約できるというのです。これが事実なら、原発を廃止にする、しないの議論など必要ありません。原発以外の発電で十分電力を賄えます。

 山田会長がいうには、いま一番必要なのはそういう住宅をたくさんつくることだそうです。このような住宅への意識が高い日本人は、たくさんいます。1つの住宅の中でエネルギーを完結させられる仕組みをつくり、現実のものとして提示すれば、あっという間にスマートグリッドは実現するというのです。

 まさに目からウロコが落ちる思いでした。大上段に構え、飛躍的な技術革新や税制改革がなければエコな社会は実現しないというのはウソで、いまある技術を“川下”から実現させるだけでも、そのような社会に劇的に近づくのです。その中で大企業は大企業で技術革新を行い、よりよい太陽光パネルや蓄電池ができれば、それを使っていけばいい。これこそ日本の本当にあるべき姿だと思います。

 この話をたまたま名古屋の中小企業の社長にしたところ、彼も同じようなことをいっていました。この会社は大手部材メーカーの住宅部材をハウスメーカーに卸す仕事をしていますが、メガソーラーなどと大それたことをいわず、一軒一軒きちんとエコの発想に基づいた住宅をつくればいいと。

 住宅をつくったり販売したりする段階で、どういう住宅に住みたいかを尋ねる。このとき「ソーラーパネルは高いけれど、エコに協力するため取り付けたい」という人がいたら、いまある技術を投入して1つの住宅の中でスマートグリッドを実現させる。ただしハウスメーカーにはそこまで明確な哲学や販売力、専門性がない。そこを流通業者が補い、日本人が持っている高い問題意識に応える住宅を安いコストで提供する。これでスマートグリッドは実現できるというのです。

 このような川下からの発想に立てば、いますぐにも実現できることはたくさんあります。日本がグリーン・テクノロジーにおいて、圧倒的に世界で優位に立つには、まず川下から押さえることです。それができれば、あとは否応なく技術開発も進んでいくはずです。

 

脱原発を実現化するアイデアを募る政策 ◇ フエルドマン

 たしかに日本は、スマートグリッドに関わる多くの技術をすでに持っています。コマツのKOMTRAX(コムトラックス=機械稼働管理システム)もそうで、世界中に存在する自社の建設機械が適切に動いているか動いていないかがリアルタイムでわかる。いま中国で何が起きているかを知りたければ、KOMTRAXのデータを見れば十分、と私は思っていて、これもスマートグリッドといえます。KOMTRAXは特別に新しい技術を使ったのではなく、すでにある技術を組み合わせたに過ぎません。それでも、これだけの技術になるのです。

 すでにある部材から新しい製品をつくるということでは、任天堂のWiiやアップルのiPodもそうです。つまり技術には2種類あるのです。1つは新しい部材を開発し、古くからある製品をより効率的なものに変えていく技術。たとえばペットボトルは、ガラスボトルより軽いです。だからペットボトルに飲み物を入れれば、その分軽く、使いやすくなる。もう1つは古い部材を新しい目的のために使う技術で、KOMTRAX、Wii、iPodがこれにあたります。

 日本には前者が得意な人もいます。たとえば今度、東大と日揮とシャープがサウジアラビア政府と組んで新しいソーラー発電所をつくります。東大も参加するのは、東大の物理学者たちが開発した非常に熱効率のいいソーラーパネルを使うからです。これは新しい部材が必要な技術で、そこには高度な専門家の存在も必要です。しかしKOMTRAXやWii、iPodで使われている後者の技術は、アイデアしだいで誰でもできます。だからそういう発想を刺激する、促進する税制や雰囲気が大事なのです。

 先はどアポロ計画の話をしましたが、アメリカがアポロ計画を立てた動機の1つは冷戦です。ソ連が世界初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功した。そのソ連に負けないため、アポロ計画を立てたのです。加えて当時のケネディ大統領が、国民に夢を持たせたかった。はっきりした危機感と目標という2つの組み合わせで動いたのです。

 脱原発の場合も、絵に描いた餅のような脱原発でなく、「今後10年以内にソーラーパネルの効率を現在の3倍にする」などと具体的な目標を示すことが大事です。そのために、どれだけの予算をつけるかもはっきり示す。そうして世界に貢献すると日本政府がいえば、日本中の優秀な人々が知恵を出し合うようになるでしょう。大学や研究所の学者や研究者に限らず、メーカーや流通業者が古い部材を組み合わせる方法を考えるなどして、いろいろなアイデアが出てきます。これは非常に効果的な政策だと思います。

 ただし、それには予算が必要で、医療や年金など、いま福祉に使っているお金を回さなければならない。「国家戦略としてそのように進めます」とビジョンを示し、断行するリーダーの存在も重要です。

 

財部誠一(たからべ せいいち)
1956年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、野村證券に入社。同社退社後、出版社勤務を経て、経済ジャーナリスト。1995年、経済政策シンクタンク「ハーベイロード・ジャパン」設立。金融、経済誌に多く寄稿するとともに、テレビ朝日『報道ステーション』、BS日テレ『財部ビジネス研究所』などテレビやラジオでも広く活躍中。また「バーベイロード・ジャパン」にて、「財政均衡法」など各種の政策提言を行っている。
著書に、『中国ゴールドラッシュを狙え』(新潮社)『負けない生き方』(東京書籍)『東京から日本経済は走り出した』(講談社)『「今のBRICs」がわかる本』(三笠書房)『農業が日本を救う』『アジアビジネスで成功する25の視点』(以上、PHP研究所)など。  著者ホームページ:http://www.takarabe-hrj.co.jp

ロバートアラン フェルドマン
モルガン・スタンレーMUFG証券マネージングディレクター。
1953年、アメリカ合衆国テネシー州生まれ。76年イェール大学で経済学、日本研究の学士号を収得したのち、日本銀行や国際通貨基金などで研究職に就く。84年、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。ソロモン・ブラザーズ・アジア証券を経て、モルガン・スタンレー証券に入社、現在にいたる。テレビ東京系『ワールドビジネスサテライト』などのコメンテーターとしても活躍している。

 

◇ 書籍紹介 ◇

日本経済 起死回生のストーリー
ロバート・アラン フェルドマン 著
財部誠一 著
税込価格 840円(本体価格800円)

 

テレビ東京系『ワールドビジネスサテライト』での「辛口コメント」に定評がある金融のプロ・フェルドマン氏。一方、テレビ朝日系『報道ステーション』でのタブーに斬り込む経済ルポが人気を博す一流ジャーナリスト・財部氏。
企業経営や経済活動の現場を知り尽くし、問題の本質を見極めた2人が、グリーン・テクノロジー、アジア市場戦略から、東北の復興策、年金・医療・財政改革まで、ソリューションを縦横無尽に語り尽くす。
閉塞感漂う日本を「ダイナミックなビジネス大国」に大変革し、活気を呼び戻すための「あっと驚く」再生プランの数々を提言。

 



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