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サイボウズ社長・青野慶久が、4人に1人が辞める会社を経営して気づいたこと

青野慶久著『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』より

2018年02月27日 公開 2024年12月16日 更新

青野慶久
 

「妖怪・カイシャ」の正体

面白いのは、この「法人」という考え方です。

法人、つまり法律が定義した「人」ということになります。「カイシャには実体がないけれど、法律の上では『人』として取り扱おう」と定義しているわけです。人間が仮想的に作り出した生きもの、それが法人、それがカイシャです。たとえるならば、「妖怪」のような想像上の生きものをイメージするとよいでしょう。実際には存在しないのだけれど、存在すると仮定して、その存在に名前をつけて、人のように扱っていこう、ということになります。

妖怪「カイシャ」は、カイシャ法で「ものを持つ」ことを認められています。ですから、カイシャは誰のものでもないのに、いろいろなものを持てます。

起業するときは、カイシャを作るために書類を作成し、自治体に提出します。新しい妖怪の誕生です。カイシャができたら銀行に行きます。銀行でカイシャの名前の口座を作り、その口座に資本金を振り込みます。

その口座を作ったのはあなたであっても、口座はあなたのものではなくて、このカイシャの持ちものになります。振り込まれたお金もやっぱりカイシャのものになる。そのお金で家具を買えば、カイシャの持ちものになる。社員が働いて利益が出たら、カイシャのお金になる。そのお金でなにかを買えば、それもカイシャの持ちものになる。

事業が成功すると、妖怪「カイシャ」の持ちものがどんどん増えていき、モンスターのように大きなカイシャになっていきます。大きくなったカイシャは、多くの人間を雇用し、その対価として人間たちに給料を支払います。
 

日本に何匹も生息する、超大金持ちのモンスター

最近、カイシャが保有する「内部留保」が増え続けていることが話題になっています。以前は日本のカイシャは借金をしているところが多かったのですが、最近のカイシャは借金を返し終わっていて、持っている資産、つまり「内部留保」が増え続けています。

考えてみれば、これはすごい話です。実体のない妖怪がものすごい額の資産を持っているということですから。そして、利益を出しているカイシャの多くは、毎年手持ちのお金を増やし続けています。何十億円、何百億円、大きいカイシャだと何千億円も、とてつもなくお金持ちのモンスターたちが、今の日本社会にたくさん生息しています。何だか気持ち悪くありませんか。

「カイシャ法」という法律を作り出したのは人間です。人間が効率よく、そしてリスクを減らして集団活動ができるようにした法律です。

カイシャ法は、想像上の人、法人を生み出しました。カイシャという妖怪です。ところが、実在しないくせに大金持ちです。しかも、生身の人間より有名だったりします。「あのカイシャは素晴らしい」なんて尊敬されることもあります。実際には「いない」のに!
 

「カイシャのために」は思考停止ワード

私たちは「カイシャのために」と思って、日々頑張って働いています。

しかし、カイシャはそもそも実体がない。そんな実在しないものに対して「カイシャのために頑張ります!」と言っているわけで、考えてみれば、おかしな話ですね。

では、私たちは誰のために働いているのでしょう。実際には、「お客様のため」であったり、「一緒に働く仲間のため」であったり、「次の世代の人たちのため」だったり、「自分のため」だったり。カイシャではなく、もっと別のいろいろなもののために頑張っているはずです。ところが、私たちは「カイシャのため」という言葉を何気なく使ってしまいます。この言葉は、我々が思考停止していることの表れで、実態と乖離しています。とても危ない言葉だと思います。

20世紀は、カイシャの仕組みが社会変化を牽引しました。「法人にものを持たせる」という仕組みがあると、所属する人間が入れ替わっても、所有権を移動させずに活動を継続できるというメリットがあります。この仕組みは持続的に集団で活動していくときに便利です。

そうやって世界にたくさんのカイシャが生まれました。大・中・小の様々なカイシャが、世界に何億匹も生息しています。カイシャを生み出した創業者が亡くなっても、カイシャは死にません。引き継いだ人たちによって生き長らえます。

もちろん事業で失敗してお金が尽きてしまえば、倒産という「死」を迎えます。また、引き継ぐ人がいなくなってしまうと、解散したりもします。しかし、まだお金が残っていて、所属する人間がいる限り、カイシャは生き続けます。生身の人間と違って死なないのです。

実体がない上に死なない。まさに妖怪です。カイシャと雇用契約をした生身の人間が頑張って働いて、事業がうまくいって、利益が出て、内部留保が増えれば増えるほど、妖怪「カイシャ」の寿命は伸びていきます。そして、お金が貯まれば貯まるほど、所属する人間が多くなればなるほど、社会的に大きな力を持つようになります。最初は小さかった妖怪が、どんどん巨大化していく。まさにモンスター。怖い、怖い。

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