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米国奇跡の子ども合唱団、「ワン・ボイス」という名にこめられた思い

福田真史 Masa Fukuda(音楽プロデューサー、ディレクター)

2018年04月25日 公開 2024年12月16日 更新

米国奇跡の子ども合唱団、「ワン・ボイス」という名にこめられた思い


ワン・ボイス・チルドレンズ・クワイアがカバーしたディズニー映画『アナと雪の女王』の挿入歌『レット・イット・ゴー』は、2014年の初めにYouTubeで公開され、爆発的なヒットとなった。撮影されたのはユタ州の観光名所「アイスキャッスル」。
 

君だけの声を聴かせて……個性を生かせば深いハーモニーが生まれる

ワン・ボイス・チルドレンズ・クワイアが拠点を置いているのは、アメリカ合衆国西部にあるユタ州のソルトレイクシティです。ソルトレイクシティは、雄大な自然に囲まれた美しい町です。

僕は高校生の時に留学生として、日本からユタ州へやってきました。25年前のことです。今や僕にとってここユタは第二の故郷。仕事でロサンゼルスやニューヨークなどの大都市へ行くことがありますが、ユタに帰ってくると心からホッとします。

ユタは平和で、静かで、住む人々は家族愛に溢れています。一家族あたりの子どもの数が多く、また基本的に人と人との距離が近いのです。そして子どもたちは、すべての人にとって等しく尊い宝物だという考えがあります。この合唱団が生まれ、12年も存続できているのはユタという土地柄によるところもおおいにあると思います。

皆さんは子どもたちの合唱団というと、どんなイメージがあるでしょうか?

日本では特に、自由に歌うというよりも、一つの模範的な歌い方を目指して練習している子どもたちを想像するかもしれません。

欧米でも、一般的な合唱コンクールでは、きちんと整列した子どもたちが、背筋を伸ばして立ち、全員同じ歌い方で歌ってハーモニーの美しさを競います。そのイメージもあって、合唱団のディレクターをしているというと、発声法や歌い方などの指導をしていると思われることがあります。

けれど僕は、みんなが同じ歌い方になるよう子どもたちを指導することはありません。それぞれが自由に歌っています。

ポップスが好きな子もいれば、クラシックが好きな子もいる。他にもジャズ、カントリー、ミュージカルなど、子どもたちの音楽への興味は様々。だから自然と歌い方もそれぞれ変わってきます。

好きな音楽のジャンルだけでなく、幼いといっても、子どもたちの背景もそれぞれです。

それらすべてが彼らの個性なのです。指導者が同じ歌い方を求めると、どうしても個性は失われてしまう。それは面白いことでしょうか? 豊かなことでしょうか? 

僕はそうは思いません。だからこそ個々のスタイルを大切にしたい。違う個性を持つ子どもたちが、それぞれ自由に歌っても、美しいハーモニーになるようにする。それがディレクターの力の発揮しどころだと考えています。

子どもたちが個性的な歌声を聴かせてくれると、もう嬉しくて誇らしくて、どうして褒めずにいられるでしょうか。自分のスタイルを見出すのはとても素晴らしいことだし、その個性を伸ばしてこそ、才能が開花していくと信じています。
 

個性を大切にしているという話をすると、
「みんなが好きなように歌っていると、歌声がまとまらないはず」
「自由に歌っているのに、この合唱団のハーモニーが素晴らしいのはなぜ?」
と言われることがあります。

確かに、あまりにバラバラだと一体感が失われることもあるでしょう。でも、この合唱団の一番の魅力は力強いハーモニー。個性的な歌声を生かしながらも、それぞれがメンバーの声に耳を澄ませて、バランスをとることで全体として調和しているのです。

それが実現できている理由の一つとして、僕が一人ひとりの歌声を生かせるように、作曲や編曲をしているということがあります。

合唱団で歌う曲は、オリジナルもあれば既存の曲をアレンジしたものもありますが、どの曲も7~8のパートに分けるようにしています。一般的な合唱団では2つのパートに分けて歌うことがほとんどなので、パートの豊富さは僕たちの合唱団の大きな特徴となっています。

子どもたちに自分の声の魅力を最も発揮できるパートを歌ってもらうことで、個性を生かしながら調和のとれたハーモニーを生み出すことができるのです。

子どもたちの個性は本当に多彩で誰一人として同じではありません。それぞれの特徴がその子だけの魅力です。

好きなスタイルや興味を抱くものが違っても協調していくことはできます。むしろ、お互いの個性を尊重するからこそ、心が一つになるのではないでしょうか?

異なる声、異なる個性が多層に重なり合って一つにまとまった時、聴く人を感動させる妙なるハーモニーが生まれるのです。

この思いは合唱団の“ワン・ボイス”という名前に込められています。
 

※本記事は、福田真史 Masa Fukuda著『君だけの声を聴かせて』(PHP研究所)より、一部を抜粋編集したものです。

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