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ワン・ボイス・チルドレンズ・クワイア~オンリーワンの個性を大切にする少年少女合唱団

福田真史 Masa Fukuda

2018年05月06日 公開 2018年05月07日 更新

ワン・ボイス・チルドレンズ・クワイア~オンリーワンの個性を大切にする少年少女合唱団


2015年のクリスマスに、ホワイトハウスに招かれ、オバマ前大統領夫妻の前でクリスマスソングを歌うワン・ボイス・チルドレンズ・クワイア。その後、晩餐会でも来賓たちの前で歌唱を披露した。
 

「自分にもできる!」と思える環境をつくる

ワン・ボイスが歌う曲には、必ずソロのパートがあります。ソロの担当者は一人に固定されておらず、同じ曲でもそのソロを歌う子は何人もいます。曲ごとにソロのオーディションがあり、希望者が参加するのです。希望すれば、誰にでもソロを歌うチャンスがあるということです。

僕がイベントやコンサートの特徴を考慮して、パフォーマンスごとにソロを歌う子を選んでおり、そのつど違う子にソロを担当してもらっています。

もし、常に同じスタイルのパフォーマンスができるようになることを目指すなら、いつも同じ子がソロを歌うのがいいでしょう。

でも、それではつまらないと思うのです。

まずは、なんといっても子どもたちにできるだけ多くの経験をさせてあげたい。だから、誰でもソロに挑戦できる環境をつくっています。

それに、音楽の素晴らしさは、同じ曲でも歌い手のスタイルによってまったく違う表現ができるということ。

たとえば、可愛らしい曲でも、声量のある子がソロを歌うとパワフルな雰囲気になります。さらに、同じ歌でも心の込め方やアクセントの入れ方によって伝わるメッセージが変わります。その子の個性によって、いかようにも表現できるということです。

ソロの歌い手が変わることで、一つの曲が様々に変化していく。

それこそが、音楽の面白いところなのです。

ソロを歌いたいけれど、オーディションを受けることをためらっている子には、
「君の声は、この曲のソロに合っているかもしれないよ」
と、その子の個性に合った曲を提案します。けれど、オーディションに参加するかどうかを決めるのはその子自身。強制することは決してありません。選択するのはいつも本人なのです。

ソロを歌ってみたい曲があれば、自由にチャレンジできる。

歌う時は、自分の歌い方を大切にしていい。

みんなと同じ歌い方でなくたっていい。

こういう前提があると、子どもたちにとって「違うこと」が「面白く」なります。

自分がある曲のソロを歌ったことがあり、別の子が同じ曲のソロを歌っているのを聴くと、「この子はこう歌うんだ! 面白いな」と思うわけです。表現者によって音楽が変化していくことをおおいに楽しんでいるのです。

これは音楽の面白さを伝えたい僕にとって、心の底から喜びを感じることです。

そしてこの合唱団では“目指すべきソロのスタイル”を設定しているわけではないので、競争や嫉妬は生まれません。逆に子どもたちは自然とお互いを称え合い、支え合うようになっています。

練習やリハーサルの時、初めてソロを担当する子が歌い切ったら、子どもたちから大きな拍手と歓声が起こります。そんな時、ソロを歌った子は本当に嬉しそうです。イベントの時も、ソロを歌う子が緊張していたら声を掛けて勇気づけてあげる子がたくさんいるのです。

仲間同士の支え合いを原動力にして、子どもたちは楽しみながら、ソロという大きな責任を担う経験を積み重ね、達成感を得ていくのです。
 


 

競争をせずに、自分らしくいられる場所

大人が子どもを指導する時は、「ここを目指しなさい」という絶対的な基準をつくることのほうが多いと思います。でもそうすると、子どもたちは全員そこを目指さざるを得なくなり、そこへの到達度を周りと比べ始め、競い合うようになってしまいます。

競争しなければならなくなると、安心感がなくなります。周りは全員ライバルになるので、常に緊張感を持ち続けることになる。それでは、相手を思いやる余裕などなくなってしまうのではないでしょうか?

僕は、子どもたちにとって合唱団が“安心して自分らしくいられる場所”であってほしいと思っています。だから、いつも子どもたちにこんなふうに話します。

「合唱団は“大きな家族”だからね。一番大切なのは、お互いを大切にして、支え合い、助け合うことだよ。もし、悲しんだり、落ち込んだりしている子がいたら、横に座って声を掛け、励ましてあげてね」

特に新しいメンバーが入ってきた時は、このメッセージが確実に伝わるように、特に丁寧に話すようにしています。

あるお母さんが教えてくれたのですが、彼女が最初に合唱団の練習を見学した時、僕はこのメッセージを3回も言っていたそうです。自分では気づいていませんでしたが、「合唱団は家族」ということをしっかり伝えたいあまり、同じことを繰り返し言っていたのでした。

そのお母さんは、
「あなたがそう言うのを聞いて、息子たちをこの合唱団に入れて良かったって思ったのよ」
と話してくれました。

支え合える関係をつくること。子どもたち全員の居場所をつくること。それが合唱団の第一の目的です。信頼関係や安心感が土台にあると、子どもたちは思う存分に能力を発揮することができます。モチベーションを高め、チャレンジ精神を持ち続けることができ、もちろんチームワークの力も高まります。

そして何より、競争をしなくていいので、子どもたちは純粋に100%音楽を楽しむことができます。そのような経験が、音楽を通して聴き手を感動させる力をしっかりと培うことになるのです。
 

※本記事は、福田真史 Masa Fukuda著『君だけの声を聴かせて』(PHP研究所)より、一部を抜粋編集したものです。

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