日本の歴史と伝統を大事に/松下幸之助
2012年01月31日 公開 2024年12月16日 更新
《『親として大切なこと』より》
日本人である以上は、日本の伝統を大事にしたい。
日本の歴史のよい面、自己を犠牲にしながら社会に尽くした偉人、そういうものを子どもに伝えていきましょう。
傍観者がたくさんできてきた世相ですね。その原因はやっぱりあったんだろうと思うんです。
終戦後、政府、指導者の立場の人が日本の再建に努力されたことは承知しておるんです。しかし、日本人として何が正しいか、何を考えねばならないかという、いちばん肝心な精神面を放棄しておったと思うんですね。
われわれは何というても日本人に違いない。日本人である以上は日本の伝統は非常に大事なものである。
しかし、その伝統を教えてはならない、いわば歴史を教えてはならないという教育のしかたですね。これは非常に誤っていると思うんです。
かりにあなたの先祖代々を考えましょう。あなたの先祖代々は、極端にいえば何千年も続いている。何万年も続いているかわかりませんね。
しかし、それはしばらくおいて、10代をさかのぼってみる。その10代の人の中には、立派な社会人として、先祖の2代目の人はこんなことやったんやなあ、3代目はこういうことやったんやなあと、あなた自身も非常にほほえましく、そこに誇りを感じるものもありますわな。
なかには、あまり感心しない人もあったかもわからんと思うんですがね。(笑)
それを見て、3人の立派な人がある、2人のちょっと間違った人がある。その3人のいいことした人のことをちっとも頭におかず、ちょっと感心しない2人の人のことだけを考えて、「おれの先祖はあかん」と言うのは、あなたとしては申しわけないと思うんです。
どっちかというと、2人のあまりよくない人のことは伏せておいて、3人のいい人のことをあなたは語ってみたいだろうと私は思うんです。またそういうことを語ることによって、あなたの子孫の教育になりますわな。
「うちの先祖のだれとだれはこういう社会的な貢献をした人や。おまえも大きくなったらそうやらないかんぞ」と言えば、教育になりますわな。
しかし、そういういい人のことを言わんと、ちょっと悪いことをした人があったら、その悪い人だけを引っぱり出して、「うちの先祖はこういう悪いことをしよったんや。おまえもやれよ」(笑)、そんなこと言えませんね。これは個人でもそうやと思うし、国またしかりやと思うんです。
ところが、国については悪い人のことだけ引っぱり出して、いいことした人のほうを隠している。これは教えてはならないというのが戦後の教育であった。
“忠臣蔵”がいいか悪いかという議論がありますけど、あれはやっぱり歴史のひとこまですね。あれは犬や猫ではできんことです。やはり誠実な一つの道義に従ったわけですな。だから好もしいことですわね。好もしいということは立派なことやと思うんです。
みんながやれることやないけれども、大石内蔵助(くらのすけ)一派の人たちは利害を捨てて義についたということでありますから、人としてなしうることであって、人間以外ではそんなことできません。
だから、そういうことも歴史のひとこまとして語っていいと思うんです。しかし、「そういうことはいかん、教えてはいかん、芝居にするのもいかん」といって禁止されたんです。
極端にいうとそういうことですね。だから、教育の面に非常に弱いものができた。自己中心になってくる。歴史で立派な人といいますと、何らかのかたちにおいて自己を犠牲にして、社会のために尽くしてますわな。そういうことを教えないわけです。
これが私は今日の傍観者になる1つの大きな素因をつくっているんじゃないかという感じがします。
『松下幸之助発言集 第4巻』より引用
松下幸之助は常々、日本の教育が個性や人権の尊重といった“個人の立場”に立ったものに偏りすぎていることを憂えていました。そして、自他相愛、共存共栄といった“世界人類的立場”と、“国家国民としての立場”に立った教育をバランスよく行なっていくことが大事だと訴えました。
◇書籍紹介◇
親として大切なこと
松下幸之助 著
PHP研究所 経営理念研究本部 編
本体価格1,100円
親に知っておいて欲しい大切なこと! 松下幸之助の残した数々の著作物の中から、子どもや若い人達の才能を磨き、伸ばす知恵をまとめた本。