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社会

世界で加熱するローマ法王人気 日本人が知らない「フランシスコ効果」

徳安茂(元外交官、在バチカン元公使)

2018年12月25日 公開 2019年04月03日 更新

「フランシスコ効果」で市街に大渋滞が発生

サン・ピエトロ広場
サン・ピエトロ広場周辺は大渋滞が発生するという(dpa/時事通信)

2014年に列聖式が行なわれてカトリックの聖人となった、先々代のローマ法王ヨハネ・パウロ2世も世界的人気を誇ったが、バチカン関係者にいわせると、その時代でもこんなにたくさんの人で広場が埋めつくされることはなかったそうだ。

参拝者は、少しでも良い場所を確保すべく朝早くから広場に集いはじめ、一般謁見終了後もサン・ピエトロ広場周辺のレストランやカフェなどにとどまることが多いので、当日はものすごい交通渋滞が発生する。

ローマっ子やタクシー運転手もそのあたりの事情はよく知っているので、その日は広場周辺の道路を避けるのが常識となっている。

他方、この現象に喜んでいるのが、ローマのホテル、レストラン、カフェなどの観光関連ビジネスに携わる人たちである。

とくに、バチカン周辺の土産物店は大喜びで、少し前までは閑古鳥が鳴いていたような状況にあったが、いきなりの大盛況で大わらわとなっている。まさに「フランシスコ効果」とでも形容できる経済波及効果の恩恵に浴している。

「フランシスコ効果」なる言葉が最初に使われだしたのはフランスだったらしい。フランスは歴史的な経緯もあり、政教分離(laïcité :ライシテ)の伝統が根づいているが、いまでもカトリック大国であることに変わりはなく、社会党政権下においてもバチカンの影響は無視できない。
 

「若者の宗教離れ」を食い止め、献金額も増加

そのフランスで、宗教専門紙としてはいちばんの伝統と権威を誇る「ラ・クロワ」が、フランシスコ法王の就任後半年の2013年9月に実施した世論調査の結果が興味深い。

それによれば、フランスにおけるカトリックの65%以上の人が、「新法王はカトリックの伝統的価値に新風を吹き込んでおり、カトリック教徒であることに積極的な誇りを感じる」と回答している。

これはカトリック教徒を対象に実施した世論調査であり、その過半数が肯定的な回答をしたというのは一見当たり前のような印象を与える。

しかし、フランスでもカトリックの衰退やバチカン離れは長いあいだ続いており、ベネディクト16世前法王時代の2008年に実施された同内容の世論調査では33%だったという事実に鑑みれば、フランシスコの人気が際立つ。

宗教離れの傾向が長らく続いていた若年層のあいだでも、日曜日に教会に足を向けたり、教会が主催する各種行事への参加が増えたりと、カトリックに対する関心の回帰現象が起こっているともいう。

このような社会現象を指して「フランシスコ効果」なる言葉が生まれたらしいが、この傾向はほかの欧州諸国においても同様に見られ、世界的な広がりをもちつつあることが見てとれる。

カトリック大陸といってもよい南米、カトリック人口の顕著な増大傾向が続くアフリカやアジアの国々においても似たような現象があるという。こうした人気はすでに数字となって表れている。

「聖ペトロ使徒座への献金」と呼ばれるバチカンの基金がある。
これは全世界のカトリック司教区から寄せられる献金を財源としており、バチカンの世界的な慈善活動を支えるための特別基金である。

毎年6月29日のサン・ピエトロ記念節に献金が集められるためこの名がついているそうだが、献金額を見ると、2012年の総額が6,590万ドルだったのに比べ、フランシスコが新法王に就任してわずか3カ月後の2013年6月には、献金総額が8,000万ドルを超えたという。

献金額の大幅な増加は、新法王の誕生を祝う、いわばご祝儀相場の側面もあったと思われるが、世界経済全体の低迷が続くなかでこの数字を記録したことは、フランシスコ法王の世界的な人気の高まりを反映したものと見ることもできる。

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