改革は楽しければ成功、楽しくなければ失敗
「働き方改革」というと聞こえはいいけれど、先述の通り、現状はとても成功しているとはいえません。では、そもそも働き方改革とは、どういう状態になれば成功だといえるのでしょうか。
私はシンプルに、「みんなで集まって働くことが楽しいかどうか」が問われるべきだと考えています。誰もが楽しく働けるようになれば、働き方改革は成功。楽しくなければ、失敗ということです。楽しさとは、「一人ひとりの幸福度」と言い換えていいでしょう。
思えば、働き方改革の議論は元々、働く人の心身を蝕む長時間勤務や過重労働への危機感から始まったはずなのに、いつの間にかそれを置き去りにしたかたちでの生産性の追求や残業代の削減といった、“働かせ方改革”の議論にすりかわってしまいました。現場は人手不足にもかかわらず、残業を否応なしに制限され、とにかく短時間で計画目標を達成することばかり求められる。そんな経営側だけに都合のいい働き方改革を押し付けられたら、現場は楽しいはずがありません。楽しいどころか、ますます疲弊するばかり。目先の利益や効率だけ求められて、幸福度は置き去りなのですから。
私たち日本人はこれまで、「働くこと」と「楽しさ」とを切り離して考えがちでした。「会社は楽しむ場所じゃない」「仕事は苦しくて当たり前。苦しいからお金という報酬がもらえるのだ。儲からなければ、幸福も手に入らない」。そんな固定観念にずっととらわれてきたのではないでしょうか。
私もかつてはそうでした。でも、職場で過ごす時間は人生の多くを占めます。それが楽しくなければ、いくら儲かっても不毛であり、お金だけでは幸福度は上がりません。
経営側から見ても、もはや「金銭的な報酬さえ保障すればいい」という時代ではないでしょう。「得ることが嬉しいもの」をすべて報酬だと定義するならば、社員一人ひとりにとって、「楽しく働けること」や「楽しく働ける職場であること」も給料と同じくらい、いいえ、それ以上に大きな報酬だといえます。
実際、そう考える人は、若い世代を中心に確実に増えてきました。したがって、給料以外にも報酬が得られる楽しい職場は、優秀な人材が集まりやすく、離職しにくい。逆に、給料が高くても楽しく働けない幸福度の低い職場は、採用面や定着面で苦戦し、深刻な人手不足に陥りかねません。生産性や創造性の面でも、長い目で見れば、どちらの職場が優れているかは自明でしょう。
「働く楽しさ」という報酬をいかにして生み出し、社員の幸福度を高めるか――私たちはそれを重要な経営戦略だととらえています。
もちろん、何をもって楽しいと思うかは人それぞれです。「私はこの技術を触っているだけで楽しい」「僕は仕事の道具や機材にとことんこだわるのが楽しい」「副業で全く違う仕事を掛け持ちするのが楽しい」――いろいろな仕事の楽しみ方=働き方があるでしょう。
誰もが自分らしく仕事を楽しめる状態に限りなく近づけていくことこそが、働き方改革のあるべき姿。だから私たちは組織のイズム(あり方)として多様性を最重視し、「100人100通りの働き方」にチャレンジしているのです。
※本稿は、マネジメント誌「衆知」2018年9・10月号・特集「これからの『働き方』マネジメント」より転載したものです。