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夫が脳梗塞で倒れて始まった苦境…妻を支え続けた「片づけ」の力

杉田明子(収納デザイナー)

2019年03月01日 公開 2020年08月09日 更新

「今のあなたの部屋は、あなたの状態です」の言葉に落涙

その頃、日々の生活を送る家のなかがどうなっていたか――。生まれたばかりの赤ちゃんがいる幸せな空気感とはほど遠く、帰ってお風呂に入り寝るだけの家に成り果てていました。

保育園に持っていく大量の着替えや前かけ、夫の着替え、私の洋服が1週間部屋のなかに干しっぱなし。布団も敷きっぱなし。掃除もしていない。生活のことなど気にする暇もなければ、時間もありませんでした。

そんなある日、病院にあった雑誌のなかで「今のあなたの部屋は、あなたの状態です」という言葉に出合いました。目にした瞬間、涙がボロボロこぼれ落ちました。

当時の私は、あまり泣いていませんでした。泣くことも忘れていたような精神状態でした。そして私の身に起こっている混乱と家の混乱はまさに同じ状態だったのです。

この言葉に出合ったあと私はそのまま家に帰り、一心不乱に家のなかを片づけはじめました。

部屋に干しっぱなしだった洗濯物をたたみ、掃除機をかけ、キッチンも寝室も綺麗に片づけ、家中の掃除をしました。しばらく閉じられたままだったカーテンを開け、窓を拭き、ベランダも磨きました。

サッカー部の顧問をしていた夫のサッカーウェアやベンチコートも洗濯をしました。「ストッキングで磨くと綺麗になる」と、いつも古いストッキングをスパイク磨きに使っていた夫を真似てスパイクも磨きました。

もう一度ピッチに立って生徒を指導する夫の姿を思いながら……。気づけば明け方まで家を整えていました。

状況は何も変わっていません。それでも、家のなかを整えただけなのに、翌朝不思議と私の心はとても晴れやかでした。気負うことなく自然体で「また頑張ろう、頑張れそう」という気持ちになっていました。
 

夫の努力と周囲の優しさ

久しぶりに感じた明るい気持ちとともに病院に行くと、主治医の先生から「リハビリセンター病院が空いたよ」と告げられました。今ほどリハビリ専門の病院数は多くない当時、奇跡のような出来事でした。

夫のリハビリが無事に開始され、夫自身の配慮もあって、病院通いが週末だけになった私は日常生活にゆとりができはじめました。夫がいつ帰ってきてもいいように毎日掃除をし、朝はカーテンを開け、自分の食事もつくるようになりました。

息子を保育園に送り届けて会社に行き、帰ってからの息子との短い時間、ふたりだけの生活が寂しくならないように、明るい部屋をつくりました。息子とはよくおしゃべりをし、一緒に歌をうたい、絵本を読み聞かせながら眠りにつきました。

一方、夫は、1日2時間程度に限定されているリハビリ以外に、ナースステーションで看護師さんをつかまえては言語訓練をしていました。自主トレと合わせて1日8時間以上していたようです。

努力の甲斐もあり、日常生活に困らない程度に話せるまで回復した夫は、予定よりも1ヶ月ほど早く退院。執刀医の先生から「奇跡でしかない」と言われた回復ぶりです。

さらに二度目の奇跡が起きます。なんと勤めていた学校から「欠員が出たため、週に何回か出勤できないか」という打診があったのです。

本来、非常勤講師であった夫を切り捨てることは簡単だったはずなのに、籍を残してくださり、さらには「空きが出た」と連絡までくださいました。

学校に来たほうがリハビリになるだろうと、まずは実技の体育授業のみで受け入れてくださった先生方。そして変わってしまった夫を戸惑いながらも受け入れてくれた生徒のみんな。すべてが私たち家族の奇跡でした。発症から7ヶ月後のことです。

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