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「がん」になると病院を信じられなくなる理由 医師と患者の圧倒的な「情報格差」

大場大(東京オンコロジーセンター代表)

2019年04月12日 公開 2023年01月12日 更新

 

医師と患者の間に横たわる大きな格差

そして、もうひとつは医師と患者との間に圧倒的な情報の格差が存在するということです。

この国ならではの恵まれた国民皆保険制度の恩恵によって、「患者側が何もしなくても、きっと医師がベストを尽くしてくれるはずだから、すべてお任せ」という、医師の性善説に委ねた精神構造がこれまであったのかもしれません。

しかし、後述しますが、医師のレベルは千差万別なので、もはや「すべてお任せ」といったスタンスには、大きなリスクがあるといっても過言ではありません。

また、医師の側に目を転じてみますと、「医師たる者、世俗と交わらず医療現場で粛々と理性的にふるまうのが美徳だ」とする価値観が根強くあるのだと思います。

それはまったくその通りなのですが、あまりにも閉鎖的な学術活動に徹しすぎて、一般へのリテラシー教育が不十分であったことは認めないといけないでしょう。

そのせいで、現在にいたるまで、日本人の「がんリテラシー」が低いレベルのままになってしまっているということはないでしょうか。

結果、詐欺的なエセ医学に影響されやすい社会病理を生み出してしまったわけです。

 

「がん」には正しい理解が必要

一方で、医療従事者サイドばかりに主たる責任があるということでもありません。ゆとり教育の弊害からか、かつてサイエンス詐欺でみなが振り回されたように、この国の社会性、国民性において「科学(サイエンス)」を正しく理解しようとする精神がいっこうにして定着していないようにもみえます。

では、医療についてはどうでしょうか。日本は欧州と比較して健康リテラシーが相当低いという論文もみられます(BMC Public Health 2015; 15: 505-516)。

さらに、それが「がん」の話になると、自身の人生がかかった一大事の場面でしなくてはいけない意思決定であるにもかかわらず、情報を賢く選択し、正しく理解できる「がんリテラシー」がまったく育まれていない、というのが正直なところではないでしょうか。

ビジネスシーンにおいては、胡散臭いものや、理屈が通らない怪しげなものに対して「それって本当なの?」と批判的にとらえることができる健全な思考を働かせられる方は、多くいらっしゃいます。

ところが、ことテーマが「がん」になった途端に、突如として苦手意識が強くなるのはなぜでしょうか。それは正しく情報を発信する使命があるはずの、この国の様々なメディアの側に対しても等しくいえることです。

おそらくは、当時者ではないかぎり「がん」は普段においては他人事だからです。

しかし、今や二人に一人の割合でがんに罹る時代です。

これまでは健康を維持していたとしても、病院に一度もお世話にならなかったとしても、これからの近い将来、誰にとってももはや「がん」は他人事ではなく、自身のため、愛する人のために正しいリテラシーを備えておくことは重要なのではないでしょうか。

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