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社会

「夜へのニッチ戦略」が、人類最大の武器となった

稲垣栄洋(生物学者)

2019年04月05日 公開 2023年01月10日 更新

サバンナで行なわれている巧妙な「ニッチ戦略」

本当に、すべての生物がナンバー1であり、ニッチを分け合っているのだろうか。

現在の哺乳類の世界を見てみよう。

アフリカのサバンナには、さまざまな草食動物が共存して暮らしている。彼らは、本当に棲み分けをしているのだろうか。

シマウマは草原の草を食べている。一方、キリンは、地面に生える草ではなく、高い木の葉を食べている。つまり、シマウマとキリンは、同じサバンナの草原にいても、争わないように餌を分けているのである。

草原の草を食べる動物は、シマウマの他にもいる。たとえば、ヌーやトムソンガゼルはどうだろうか。じつは、これらの動物も餌を少しずつずらしている。

ウマの仲間のシマウマは、草の先端を食べる。次にウシの仲間のヌーは、その下の草の茎や葉を食べる。そして、シカの仲間のトムソンガゼルは地面に近い背丈の低い草を食べている。こうして、同じサバンナの草食動物も、食べる部分をずらして、棲み分けているのである。

ニッチは単に場所のことではない。同じ場所であっても、エサが異なればニッチを分け合うことができる。また、暮らす季節が異なってもニッチは分け合うことができる。このように、場所やエサを変化させて共存することを、「棲み分け」と呼ぶ。

もっとも、生物たちは平和共存を目指して「棲み分け」をしているわけではない。激しい競争の結果として、棲み分けが起こっているのである。

 

夜という「究極のニッチ」を見つけた哺乳類

恐竜たちが地球を支配していたとき、哺乳類に与えられたニッチは、恐竜のいない夜という時間の、恐竜が棲めないような小さな空間しかなかった。そして、哺乳類は細々とつつましく生きていたのである。

しかし、恐竜がいなくなった後、地球上のあらゆるニッチに空席ができた。そして、明け渡されたニッチを埋めるように、哺乳類はさまざまな環境に適応して進化を遂げたのである。

哺乳類の祖先はネズミのような小さな生き物であったとされているが、トリケラトプスのような草を食べる草食恐竜がいなくなると、そのニッチを埋めるかのように、サイやウシのような哺乳類が進化をする。そして、草食恐竜を食べていたティラノサウルスの代わりに、そのニッチには、トラやライオンなどの猛獣が進化を遂げるのである。このように、さまざまな環境に適応して変化する現象は適応放散と言われている。

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哺乳類が世界を支配できた理由

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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