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社会

「夜へのニッチ戦略」が、人類最大の武器となった

稲垣栄洋(生物学者)

2019年04月05日 公開 2024年12月16日 更新

哺乳類が世界を支配できた理由

恐竜が絶滅し、空いたニッチを哺乳類たちは埋めながら繁栄していった。そして、哺乳類は恐竜に代わり地上の支配者となっていくのである。

しかし、である。

恐竜が滅んだ直後の地球で影響力を強めていったのは、哺乳類ではなかった。

それは哺乳類とともに絶滅の危機を乗り越えた鳥類と爬虫類だったのである。

鳥類と爬虫類は、恐竜がいる時代であっても、ある程度の地位を確保していた。鳥類は空を思うがままに支配する空の王者であり、爬虫類はワニに見られるように大型にも進化を遂げた水辺の王者だったのである。

これに対して、哺乳類は何の進化もしていない小さなネズミのような存在だった。ニッチを奪われ、ほんの小さなニッチに押し込められていたのである。

しかし、これが幸いした。

鳥は、他の生物が成し遂げることのできなかった「飛ぶ」という進化を遂げた。そして空を手に入れた成功者である。

ワニのような爬虫類もすでに水辺では王者であった。陸上は恐竜に支配されているが、水辺ではワニが恐竜をエサにしていたほどである。現在でも、ワニは恐竜時代と変わらぬ姿で地球に存在している。つまり、ワニの「型」は、恐竜の時代にすでに完成していたのである。

このように、すでに自分の成功の型を持っていた鳥や爬虫類は、その型を崩してまで大きく変化することはできなかった。しかし、哺乳類は何の進化も遂げていない。どんな変化をしても失うもののない「まっさら」な状態だったのである。

何かに挑戦するときに、ゼロであることほど強いものはないのかも知れない。何も持っていなかった哺乳類は、さまざまな環境に合わせて自在に変化していったのである。

 

巨大類人猿ギガントピテクスを滅ぼしたのは「パンダ」だった!?

ニッチを奪い合う進化の過程で、哺乳類の間でもニッチをめぐる壮絶な競合があったことだろう。

代表的な例にギカントピテクスがある。

ギカントピテクスは、100万年ほど前に、人類との共通の祖先から分かれて進化した類人猿である。ギガントは英語では「ジャイアント」の意味であり、ギカントピテクスは「巨人」という意味だ。

その名のとおり、ギカントピテクスは大型で身長は3メートル、体重は500キログラムもある。ゴリラよりもずっと巨大な史上最大の類人猿だ。

こんなに強そうな類人猿が、どうして滅んでしまったのだろう。

一説によると、ジャイアントパンダとのニッチをめぐる競合に敗れてしまったのではないかと考えられている。ジャイアントパンダも「ジャイアント」と冠する大型の生物である。ジャイアントパンダは竹を主食とする大型の哺乳類であった。そして、ギカントピテクスもまた、竹を主食としていたことによって、ジャイアントパンダとニッチが重なってしまったことが絶滅の原因と考えられているのである。

まさに生き残りを掛けたイス取りゲーム。

ニッチをめぐる争いは、これほどまでに厳しいものなのである。

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「ずらす」という戦略が有効な理由

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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