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社会

映画『新聞記者』異例のヒット 一方で現実のメディアは「事実」を伝えているのか

大澤真幸(おおさわまさち:社会学者)

2019年07月18日 公開 2019年08月02日 更新

 

高視聴率より、理念を追え

メディアというのは、それだけ私たちの社会に対して大きな力をもちます。だから、メディアにいる人たちには、ただ視聴率を稼ぎたいとか、売れる本をつくりたいとかいうだけではなく、どうせやるなら世界を変えたいという野心をもってほしい。メディアというのは、それが可能な仕事の一つなのですから。

エコロジー運動のスローガンに、"Think globally, act locally”というのがあります。僕は、ジャーナリズムや報道というのは、何が事実かを伝えることで、この前半の、Think globally の素材を与える使命をもつと思うのです。ここで僕が言うglobal というのは、「地球的」というよりも広い意味で、「全体的で普遍的」というような趣旨です。

Think globally を触発する事実というのは、別に、国際政治や国際経済に関係することとか、何かいかにも大きな出来事ということばかりではありません。

今、紹介した「新宿西口バス放火事件」のケースのように、一つの出来事についての事実に内在して、繊細に見ていけば、そこにある特殊で個人的な苦しみが、「赦す/赦される」という人間関係の普遍的な問題を再考するきっかけを与えるわけです。

私たちは今、大量の情報にさらされているけれど、それらはほとんど、私たちの思考を、"Think locally”の方へと導いている。それを"Think globally”の方へと転化させるのがメディアの使命ではないか。それを果たすことが、メディアを通じて「世界を変える」ということでもあるわけです。

 

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