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映画『新聞記者』異例のヒット 一方で現実のメディアは「事実」を伝えているのか

2019年07月18日 公開

大澤真幸(おおさわまさち:社会学者)

大澤真幸(社会学者)

<<映画『新聞記者』が、連日満席、異例のヒットを続けている。マスコミの在り方に注目が集まる中、現代メディアはその役割を全うできているか。権力の監視は機能しているのか。

NHK『100分deメディア論』から生まれた話題の書『支配の構造 国家とメディア――「世論」はいかに操られるか』にて、メディアについて徹底議論を行った社会学者・大澤真幸氏が、メディアの使命と可能性について提言を行った。>>

※本稿は堤未果,中島岳志, 大澤真幸著,高橋源一郎著『支配の構造 国家とメディア 「世論」はいかに操られるか 』(SB新書)より一部抜粋・編集したものです

 

戦地の取材現場に大手メディアがいない

そもそも「知る権利を守る」ために、今の日本のメディアは、本来の使命を果たせているのか、という疑問が私にはあります。

たとえば、紛争地域など危険な場所での取材現場に、海外メディアはいても日本の大手メディアは絶対いません。いるのはフリーのジャーナリストだけ。『メディアの権力』のところで、「事実」への追求心という話が出ましたが、その「事実」を知ろう、知らせようとする情熱が、今の日本のメディアにはあまりにもないように思います。

以前、テレビ朝日の『ニュースステーション』という番組がありました。久米宏さんが司会でスタートしたけれど、当初はなかなか視聴率が伸びなかったんです。

突然視聴率がアップしたきっかけは1986年、フィリピンでマルコス政権が倒されてアキノ政権が成立した「エドゥサ革命」のときでした。マルコス元大統領の亡命と政権崩壊について、放送時間を延長して速報したことで注目を集めたんです。

しかしそのとき、テレビ朝日が現地からの報道を見事にやりとげたのかといえば、実はそうではなかった。アメリカ国務長官による記者会見は、CNNの生放送に翻訳を付けたもの。現地レポーターからの電話リポートもありましたが、それも内容は自分で取材したものではなかった。たまたま隣のブースだった海外ニュース局の情報をレポーターが聞き取り、そのまま日本語に翻訳して伝えたものに過ぎなかったのです。

 

受け手が聞きたいことを聞かせるのに熱心

今の日本のメディアがやっているのは、「事実を知らせる」ことではなくて、受け手が「聞きたいこと」を聞かせることなのではないでしょうか。そして視聴者、読者もそれを聞いたり、読んだりして「やっぱり、そうか」と確認して、安心する。事実を知らせる、受け手に考えさせるという役割を果たしていないんです。

私は学者だから、日々「真理の探究」ということを考え続けています。それは、結果としてどんなに都合の悪い事実が出てきたとしても、真理に基づかない提案というのはやはり説得力がないし、長くはもたないと思うからです。メディアも同じで、やはり「本当の事実は何か?」というシンプルな情熱をもつところから、始めなくてはならないのではないか。

そのときに重要になってくるのは、「何を映すか」だけではなく「どこから映すか」ということです。今は社会を、世界をどこから見たらいいのかという「視点」が揺らいでいる時代です。その中で、「こっちから見たらこう見える」「あちらからならこう見える」ということを多角的に示すのがメディアのアクチュアルな使命になっているのではないでしょうか。

ドキュメンタリー作家の森達也さんが、映画『A』でオウム真理教の「サティアン」の内側の映像を出したのは、まさにそういうことだと思います。

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