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「気軽な睡眠薬の服用」が「薬物中毒」へ…医師が警告するその危険性

内海聡(Tokyo DD Clinic院長、NPO法人薬害研究センター理事長)

2019年11月09日 公開 2019年11月20日 更新

 

「いつ死んでも不思議ではない」処方量

薬が増えるにつれて、Aさんには、いままでなら決してとらなかった行動が増えていった。

・すこしでも嫌なことがあると、薬をまとめて飲む(オーバードーズ)
・オーバードーズが原因で、意識が朦朧(もうろう)として急に倒れる。
・道端で倒れて、通りすがりの人が呼んだ救急車で運ばれる
・体がつねに生傷だらけになっている
・無意識のうちに手首を切っている(リストカット)
・飛び降りや包丁で自殺を図ろうとする
・夫と言い争いになって、夫の首を絞めたことがある

私のもとに来たときには、メンタルクリニックに通院を始めてから6年が過ぎ、1日分として16種類27錠の薬が処方されていた。具体的には、図表1の通りだ。睡眠薬関連だけでも9種類出ている。

Aさんに処方されていた薬の種類と量

この処方を見て、どう思われるだろう。「おかしい」と思うのが、ごく普通の感覚ではないだろうか。

実際、これはいつ死んでもおかしくない処方だ。「眠れない」というだけの理由で医者にかかった代償がこれだ。気がつけば立派なジャンキー(薬物中毒のこと)になっていた。

この話を「一部の例外」と片づけてはいけない。本当によく耳にする話である。日本全国どこの精神科でも、ごく普通に見かける処方だ。こういう処方をしているクリニックを、私は実際に何百と知っている。

眠れないから睡眠薬を飲み始め、耐性ができて効かなくなるから、量が増え、種類が増え、気づいたときには薬を飲み始める前よりもすっかり体が悪くなっている。典型的なパターンである。

Aさんの場合、自殺は未遂ですんだ。犯罪にもいたらず、途中で「おかしい」と気づき、そこから引き返すことができた。

といっても、16種類の薬を数年間、毎日飲み続けていたのだから、すぐにやめられたわけではない。減薬にともなう禁断症状に相当苦しめられていた。

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睡眠薬から始まった薬物中毒死

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