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明日海りお、退団…花組トップへ駆け上がった“静岡の名門中学生”

松島奈巳 (演劇記者)

2019年11月25日 公開 2022年03月01日 更新

 

静岡の名門の中学生は「宝塚」の何に触れたのか?

JR静岡駅から徒歩17分。

徳川家康が晩年を過ごした駿府城の北東に、私立静岡雙葉中学・高校がある。公式ホームページによれば、2018年度の大学合格状況は、次の通り。

● 卒業生 131名
● 国公立大 26名(京都、東北、名古屋、お茶の水女子、東京外国語ほか)
● 早稲田13名 慶應義塾8名
● MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)42名
● 私立大学医学部 10名

130人余りという定員を考えると、県立校と比べても遜色ない。県下有数の進学校である。筆者の記憶では、小学校のクラス40名の中で男子も含めて上位3~5位まででないと合格できない、という印象がある。

2000年4月。明日海りおは、静岡雙葉中学3年に進級した。

月刊誌『宝塚GRAPH』において、根強い人気をほこっている連載がある。

「波瀾爆笑!? 我が人生」(イラスト・潤色/ますっく)。毎回ひとりのスター候補生をピックアップして、生誕から宝塚音楽学校合格までをユーモアいっぱいに紹介する連載マンガだ。

明日海りおが登場したのは、2010年1月号。
現在にいたるまで、ひっかかっているエピソードがある。
宝塚音楽学校入学のあらましは、下記の通り。

● 中学3年生の夏休み、友達から宝塚のビデオテープを渡される
● 月組公演『LUNA』『BLUE・MOON・BLUE』
● 観終わるころには、すっかりハマっていた
● その後、他のビデオや月刊誌『歌劇』『宝塚GRAPH』も借り
● ますますハマってしまう
● 「宝塚音楽学校を受験させて」と両親に懇願するが、
● 母は「何言ってるの。絶対ダメ!」
● 三日三晩、部屋にこもって泣きわめき、風邪までひいたところ
● 母から「じゃぁ…、とりあえず受けたら」とお許しがでる

どこにひっかかったかというと、ビデオ初観劇の作品だ。

静岡市内の名門女子校に通っていた中学3年生が、たった1本のビデオで人生が流転した。月組の2本立なのだが、どこに魅かれたのだろうか。
『ウィズたからづか』(2008年12月号)のフェアリーインタビューでは、

《数々の抜擢に、チャレンジャー精神で挑み続ける明日海りおさんの原動力は、「宝塚が大好きだから」

夢が叶った初舞台は2003年4月、月組公演『花の宝塚風土記』。宝塚受験を決意したのは、そのわずか3年前だ。クラシックバレエ教室の友人に勧められてショー『BLUE・MOON・BLUE』をビデオで観たのがきっかけだった。

「衝撃を受けました。華やかで、独特の世界観があって」》

魅了したのは、ショー『BLUE・MOON・BLUE』だった。

作・演出は、当時若手の齋藤吉正。これが大劇場デビュー作となる。

砂漠をさすらうひとりの戦士が、月明かりの赤い花に導かれて幻覚を見るという設定で幕を開け、テイストはアジアンでエスニック風。

とはいえ脈絡もないまま、突然、4人娘のバニーちゃんが登場しちゃったり、アフロのディスコダンサーがフィーバーしちゃったりもする。主題歌は、「THE ALFEE」の高見沢俊彦が書き下ろしている。

トップコンビを組むのは、真琴つばさ& 檀れい。2番手で要所をしめるのは、紫吹淳(しぶきじゅん)。

脂ののった真琴つばさトップ時代ではあるのだが、筆者の感想は、

「毛色の変わったショー」

スピーディでサービス精神旺盛。見せ場も多いが、中学3年生をシビれさせてしまう何があったのだろうか。歌劇史に残る名作『ノバ・ボサ・ノバ』や、1000days劇場の開場2作目を飾ったロマンティックレビュー『シトラスの風』ならば、まだ理解できたのだが。

 

昭和世代の「異色作」は、平成世代にはとびっきりの「エンタテインメント」だった

ビデオ初観劇から15年余り。

ムック本『TAKARAZUKA REVUE 2017』のインタビューで、「ご自身がちょっと落ち込んだ時や、元気がないなという人にお勧めしたい、観たらハッピーになれるタカラヅカの演目を教えてください」という質問があった。

明日海の回答は、

《私がファン時代から元気をもらっていたのは『BLUE・MOON・BLUE』です。私が初めて観た宝塚のショー作品で、特にパレードのシーンは最高です。》

面白いことに同じ質問に現・雪組トップスター望海風斗も、

《パっと思いつくのは月組公演『BLUE・MOON・BLUE』です。宝塚音楽学校を受験する前、「どうしても合格したい!」と思わせてもらえたショーで、今でもこの作品を観ると初心に帰ります。
ワクワクするプロローグからミステリアスな雰囲気の中詰め、マミさん(真琴つばさ)がカッコよく踊るフィナーレナンバーなど大好きです!》

長々と『BLUE・MOON・BLUE』についてこだわってきたが、当たり前のことに気づかされる。昭和世代と平成世代とは、ステージへの感受性がまったく異なっている。

筆者の世代からすれば「異色作」と映った『BLUE・MOON・BLUE』であるが、幼少時代からはるか多岐にわたる芸術に触れてきた明日海りおや望海風斗の目には、まったく違った印象を残したようだ。

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