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THE21書評から

『THE21』編集部

2010年12月24日 公開 2022年08月17日 更新

『「科学技術大国」中国の真実』

橘 玲著
講談社現代新書/798円(税込)

日本の科学技術力は世界と戦っていけるのか

「科学技術大国」中国の真実  アメリカ、ロシアに続いて世界で3番目に有人宇宙飛行を成功させるなど、中国は科学技術で世界トップクラスに並んだようにもみえる。しかし、一方で、せっかく購入した高価な分析機器が扱えずに放置されているような研究室が多くあるのも実情だ。
 では、そんな中国と協力する必要はないのかといえば、2007年から在中国日本国大使館一等書記官(科学技術アタッシェ)を務める『「科学技術大国」中国の真実』の著者は、そうではない、という。
 2007年に京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞を生成する技術を開発したが、マウスの皮膚細胞からiPS細胞をつくり、そこからマウスを一匹誕生させることに成功したのは、資金と人材を大量に投入した中国の研究所だった。2008年に東京工業大学の細野秀雄教授が鉄の化合物による高温超伝導を発見したが、いまや、その分野での論文数の7割を中国が占める。中国は、ホットな話題となった分野に大量の資金と人材を投入して成果を出しているのだ。一方、日本では、研究資金は減り、研究インフラは老朽化している。山中教授はノーベル賞を獲れるかもしれないが、といって、日本の科学技術は世界最高レベルだとは一概に評価できない。
 そこで、中国の人材、投資、産業化力を、日本の科学技術力と融合させるべきだというのが著者の主張だ。  もちろん、資金があればいいというものでもない。『小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡』を書いたJAXA名誉教授・技術参与である的川泰宣氏は、「お金があると仕事を他人に委託してしまい、ピンチのときにアイディアを出せるプロジェクトマネージャーが獲得できない。『適当な貧乏』が知恵を生み出す」と述べている。その知恵が、はやぶさを数々の危機から救ったのだ。
 ところで、中国と並んで注目される新興国インドも、宇宙開発や原子力で大国をめざしている。『インドの科学者』は、植民地時代からのインドの近代科学の歴史を、人物に焦点を当てて辿る。インドは世界的に有名な科学者を多く輩出しており、アメリカの科学技術の革新に大きく貢献している。シリコンバレーも、もはやインド人なしには成り立たない。
 科学技術は「夢と希望」であると同時に、環境問題をはじめとする政治問題でもある。『科学は誰のものか』は、政治的な利害・権力関係の影響を受ける科学技術が「善い科学技術」を追求するためには、政府、自治体からNGOや個人まで、多様なアクターによる水平的なガバナンスが必要であるという。では、善い科学技術とは何か。それを追求するために、科学が問わない、あるいは問えない疑問を、「なんでやねん!?」と斜め横からツッコむべきだと指摘する。(S.K)

小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡

『小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡』
的川泰宣 著

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『インドの科学者』
三上喜貴 著

科学は誰のものか

『科学は誰のものか』
平川秀幸 著

THE21 最新号紹介

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THE21 2011年1月号

毎日のニュースをチェックしていれば、「いま伸びている国は中国やインド」「急速に円高が進んでいる」などおおまかな経済の流れはつかめます。でも、それがなぜ起こっているのか、自分の生活にどのように影響するのかまでスラスラと説明できる人は、少ないのではないでしょうか。今月号では、「ヒト・モノ・カネ」というシンプルな分類から最低限知っておきたい経済の基礎知識を抽出して解説いたします。今日から世界経済が身近に感じられるはずです。

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