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動物看護師の悲痛な訴え…飼っていた猫を保健所に持ち込む「飼い主の無責任」

鈴木聖子(動物看護師/彩の国動物愛護推進員)

2020年07月28日 公開 2023年09月27日 更新

動物看護師の悲痛な訴え…飼っていた猫を保健所に持ち込む「飼い主の無責任」


※写真はイメージです

SNSで無数に公開されている犬や猫をはじめとする愛くるしい「ペット動画」。多くのユーザの琴線に触れればたちまち拡散され、動物たちを愛でるコメントで埋め尽くされる。

しかし、動物看護師として病院でペットの哀しい現実と向き合い続けている鈴木聖子さんはこの現状に対して「ペット自身が本当に幸せでしょうか?」と疑問を投げかける。そして、日本で数多くの犬や猫が飼い主の飼育放棄によって保健所に引き取られている現状を訴えている。

本稿では鈴木さんの新著『ペットと幸せに暮らすための「13の質問」』より、無責任な飼い主を生んでしまう背景を指摘した一節を紹介する。

※本稿は鈴木聖子著『ペットと幸せに暮らすための「13の質問」 未来の飼い主さんが準備しておくべきお金や保険のこと』(インプレス刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

「飼い主の飼育放棄」で保健所に持ち込まれるペットは想像以上に多い

「あなたはそのペットを一生きちんと愛せますか?」

私が勤めている動物病院には、毎日たくさんのペットとその飼い主がやってきます。しかし、動物病院にはそんな一般のペットたちだけでなく、店頭に並ぶ前の子犬・子猫も検診を受けにきます。

その健康診断で問題がなければそのままペットショップの店頭に並びますが、そこでなにか問題が見つかれば「売れない子」としてブリーダーの元へ返されます。

そんな子犬や子猫をみているうちに、いつしか「ペットショップで売れない子は、その後はどうなるのだろう?」という疑問を持つようになりました。そこで自ら調べていくうちに、ペットの流通には大きな闇があると知りました。

そのなかで浮かび上がってきたのが「殺処分」の問題でした。

殺処分とは、「人間に害を及ぼす恐れがある動物」及び「不要になった動物」を殺害することです。

各自治体に置かれている保健所にあらゆる理由で引き取られた犬猫は、引き取りから7日間は保管されるものの、身寄りが見つかることがなければそのままガス室に押し込まれ苦しみながら死んでいくのです。

日本では現在も、犬猫あわせて年間約4万3000匹の命が人間の手によって奪われています。何の罪もない犬や猫が、今日もどこかで命を落としているのです。

環境省の調査によると、その大部分は「所有者不明」の犬や猫。逃げ出してしまって身元がわからなくなってしまったペットや、野良犬・野良猫がこれに当てはまります。しかし、ここでさらに注目してほしいのが「飼い主から」の割合です。

保健所に引き取られた犬のうちおよそ10.4%の3,726頭が、猫はおよそ18.5%の10,450頭が飼い主の飼育放棄によって持ち込まれています。

このような殺処分の問題においては、飼い主の身勝手な飼育放棄を根絶するよう取り組んでいくことが根本的な解決につながっていくと思っています。

世の中のペット飼育に対する間違った認識、理解の浅さ、心構えのないままに飼い始めてしまうことが、飼育放棄の大きな要因。「自分は大丈夫、絶対に飼える」と思っていても、将来あなたの身になにが起こるかはわかりません。

心構えのないままに飼い始めてしまえば、飼育放棄してしまう可能性は十分にありえます。「どんな状況になっても飼い始めたペットを生涯飼育する」と、あなたは今自信を持って言えるでしょうか?

 

なぜ無責任な飼育が増えてしまうのか?

もしも一度「ペットを飼う」と決めて家族に迎え入れたのであれば、生涯飼育をするのは大前提です。それなのに、飼い主自身が保健所へ持ち込むペットが絶えないという悲しい事実があります。

なぜこのようなことが絶えないのか? それは、ペットを飼う前に飼育に関する正しい知識を得られる機会がないことに大きな理由があります。

人間の子どもが生まれる際には、本や雑誌はもちろんのこと、夫婦で受講できる子育て教室など子育てを学ぶ手段は数多くあります。しかし、ことペットとなるとそういった「飼育を学ぶ機会」はほとんどありません。

人間もペットもひとつの命を育てることには変わりないのに、知識や覚悟が浅いままにペットを飼い始めてしまうことも身勝手な飼育放棄につながってしまうのです。

知識や理解が浅いうちに飼育を始めてしまうことには、ペットショップの問題も関係しています。命を売ることがひとつの商売として成立しているペットショップでは時に、飼育の知識がない人にも安易にペットを売ってしまうことがあります。

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身勝手な飼育を引き起こす「衝動買いの助長」

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