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SAKEを世界に! カリスマ利酒師が仕掛ける日本酒の世界戦略

八木・ボン・秀峰(名誉利酒師、米国TICレストラングループ社長)

2020年04月17日 公開 2022年07月11日 更新

アメリカにおける日本酒市場

2019年現在、アメリカには西海岸を主にして15のSAKE醸造所が操業しています。アメリカでは自家消費用のビールなどの「ホームブルーイング(自家醸造)」が認められていて、市民の間でも盛んな国柄ですから、今後、日本酒への興味の裾野が広がれば、クラフトSAKEの醸造への関心はもっと高まるものと思われます。

アメリカ全体のアルコール飲料の消費量の中で、日本酒の占める割合は5%にも満たず、微々たるものであるのが現状です。日本の蔵元の酒は、比率としては毎年伸び率が上がってきています。日本酒やSAKEの需要はまだまだこれからで、特に中西部やテキサスでの市場は未知数です。それにフロリダです。NY市民は冬には必ずマイアミに行きますから。

それでは、テキサスやフロリダでどんなSAKEが求められるかと言えば、間違いなくドラフトタイプでしょう。乾燥した土地柄で好まれるのは、軽やかで躊躇することなく乾いた喉を潤せる飲み物だと思います。

アメリカでの日本酒トレンドは、純米酒から始まって大吟醸へという流れでした。米の旨みやフルーティーな香りが神秘的だったのです。それが今では本醸造や山廃造り、生酒に移ってきています。生酒は日本から持ってくるより、現地で造れればよりフレッシュなものが提供できます。NYには「ブルックリン蔵」という酒蔵ができて、生酒をドラフトで提供していますが、多くの市民が関心を寄せています。新鮮感と飲みやすさが大きな理由です。
 

造りたいのは生酒や泡酒

こうした状況から私はNYで、ドラフトで提供できる生酒や泡酒の地酒を造りたいと考えています。

生酒とは「火入れ」と呼ぶ60度ほどの加熱処理を一度もしない酒です。しぼりたてのフレッシュな香味を楽しむ酒で、冷やして飲むのに適しています。

日本酒は通常、酒をしぼって貯蔵する前と、瓶詰めの際の2度にわたり60度ほどの熱をかけることで、酵素の働きを止め酒質の変化を防ぎます。そして半年~10カ月の貯蔵熟成を経ることで、華やかなしぼりたての香味から、だんだん丸みのある調和のとれた味わいへと、穏やかに変化していきます。

「火入れ」をせずに、しぼったままの状態で貯蔵すると、時間が経つにつれて、麹菌による酵素の働きで酒の中の糖分、タンパク質が分解され、変質してしまいます。生酒はしぼってすぐに楽しむのがベストな酒と言えます。

そして泡酒とは文字通り泡立つ酒です。スパークリング日本酒とも呼ばれています。シュワシュワとはじける爽やかな飲み口が持ち味で、乾杯の食前酒として人気があります。
 

ドラフトSAKEに関心を寄せる層

こうした生の酒や泡酒をNYで造って、NYのバーやレストランにドラフトとして提供したいと考えています。レストランはジャパニーズに限らず、アメリカンでもイタリアンでもフレンチでも合わせることが可能です。先のブルックリン蔵はドラフトで提供していますが、日本の蔵元が今ここに、研究に来ている状況です。私がNY郊外のリビングストンマナーに土地を買ったのは、生酒と泡酒を造りたいからでした。

あとはにごり酒です。日本酒は透明だと認識していたのに、淡く濁ったり白濁しているにごり酒は、アメリカ人にとってとてもミラクル。「澱(おり)」が多く含まれている分、素材の味を生かした日本酒と言えます。澱の成分は醪の中にある原料米、米麹やその分解物、酵母などなので、日本酒本来の米の旨みをより強く感じることができます。多くのにごり酒は火入れ処理を行わず、酵母が生きたままの状態で瓶詰めされるため、発泡性のあるものが多いのも特徴です。その分、酒質が変わりやすいので、保存管理に気を配り、開栓後はできるだけ早めに飲み切ることが必要です。泡酒やにごり酒は新たな客層の開拓に繋がっています。NYでは特に若い人たちが関心を寄せています。

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