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フランス最大の知性エマニュエル・トッドが予測する「コロナ後に悪化する世界」

エマニュエル・トッド(訳:大野舞)

2020年07月26日 公開 2023年01月11日 更新

エマニュエル・トッド

コロナ危機はすでにあった問題を表に出し、加速させた

先日アメリカで起きた大規模な反人種差別デモ(BlackLivesMatter=BLM)は、ロックダウンという束縛から解放された人々が、どのような状態になっているのかということを明らかにしました。

アメリカが見せているように、この危機に対して状況をただただ受け入れるような、諦めた人々ばかりではないことは証明されたのです。というのも今回、各国で一体何がなされたかというと、突き詰めれば高齢者を救うために若者たちを閉じ込めたということだからです。

もちろん、そうするべきではなかったなどと言っているわけではありません。私自身も高齢者グループに入るのですから、そうしてもらってよかったわけです。しかし、西洋社会が見せた、準備不足の状況には唖然とするばかりです。

このアメリカでの大規模デモ・BLMに私は注目しています。BLMにおいて、何が起きているか。人種差別は昔から変わらずアメリカにある問題ですが、格差が大きい都市部で起きているこれらの運動、その平和的なデモから暴動までを含めて、何か新しい要素があるとすると、そこに白人のアメリカ人が参加していることでしょう。

近著『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』で詳しく述べていますが、彼らの多くが、自由貿易の被害を受け、民主党のバーニー・サンダース(保護主義を訴える左派リベラル)を支持した人々です。

コロナ危機後の最初の出来事が今アメリカで起きていることだとすると、実はコロナ以前のアメリカにすでにあった傾向と今起きていることの本質は全く変わっていないことがわかるでしょう。

というのも、コロナ以前から白人の若者も、高等教育を受けた若者も、非・特権階級化しているという傾向はすでに見られていたことだからです。コロナ危機はこの傾向をより悪化させたというわけです。また、そういう意味ではフランスのような国では、社会の貧困化がさらに進むでしょう。ヨーロッパという括りでは、北と南の対立が悪化することでしょう。

 

階級化した世界

このように、今我々は「思想の大いなる噓の時代」に直面しています。先進諸国では、識字率が上がり、多くの人が民主主義について語れるようになり、あらゆる民主的な制度が存在し、投票制度も、政党も、報道の自由もあります。

しかし、実際には社会はいくつものブロックに分断されてしまい、人々が「自分たちは不平等を生きている」ことを知っている状態にいます。

構造としては、上層部に「集団エリート」の層があり、その下に完全に疎外された人々、例えばフランスでは国民連合(旧・国民戦線。反移民などを掲げる極右政党)に票を入れるような層があります。そしてその間には、何層にもなった中間層が存在しています。

このような構造の中で、民主主義のシステムは機能不全に陥ってしまったのです。民主主義に基づいて築かれた制度は問題なく機能し、国としては全ての自由を手にしている。にもかかわらず選挙そのものは狂っているとしか思えないものになっている。

民主主義というのは本来、マジョリティである下層部の人々が力を合わせて上層部の特権階級から社会の改善を手にしようというものです。ですから、民主主義は今、機能不全に陥っている。私はそう考えるわけです。

そしてこの機能不全のレベルは教育格差によって決まる――これが、私が近著『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』で述べていることです。

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