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なぜ日本人には「心配性」が多いのか?…遺伝子的な原因から考える“心の整え方”

前野隆司(慶應義塾大学大学院教授)

2020年09月18日 公開

 

日本人の多くが持つ「心配性の遺伝子型」と上手に付き合う

さて、もう一つ脳科学でわかっていることを紹介しておきます。脳内にはセロトニンという物質があります。

「幸せの物質」と呼ばれるように、セロトニンの分泌が幸福感に作用することが知られています。うつ病にかかった人は、セロトニンの分泌が非常に少なくなるそうです。

セロトニンに関連する遺伝子型に、セロトニントランスポーターSS型というタイプがあります。これは心配性の遺伝子とも呼ばれています。そして日本人は、この心配性の遺伝子をもつ人が多いということがわかっています。

昔から日本人は細かい作業が得意だとされてきました。西洋では考えられないような繊細な着物を生み出し、数百年も前から芸術的な神社仏閣をつくり上げてきました。

自動車や電気製品など、現代の製品やサービスもそうです。細部までよくできていて、品質が良い。さらに、物づくりだけでなく、客人をもてなす心遣いもとても細やかで繊細なものです。日本人の「おもてなしの心」は、欧米の「サービス」とは一線を画すものです。

どうして日本人はそのようなことができるのか。それは、裏を返せば心配性だからと言うこともできそうです。

たとえば、着物を着てくれる人のことを想像します。自分がつくった着物を気に入ってくれるだろうか。神社仏閣を建てるときにも、はたしてこの建物は100年も200年も壊れないだろうか。こんなおもてなしのやり方で客人は喜んでくれるだろうか。

そんな細やかな気配りをするからこそ、実にきっちりとした仕事をすることができる。この心配性の遺伝子こそが、繊細で美しい日本文化を築いてきた源泉だと言えるのではないでしょうか。

ただし、心配性の遺伝子がプラスに働いているうちはいいのですが、マイナスに働くと、人は悲観的になってしまいます。心配が心配を呼び、余計な不安感ばかりが襲ってくる。

そんな状態になると、悩みや心配が頭から離れなくなってしまいます。最悪の場合には自殺へとつながっていきます。他国と比べて日本人の自殺率が高いのは、この心配性の遺伝子と関連しているのかもしれません。

以上、述べてきたように、心配性もうまく使えば良い方向に向かいます。しかし悪い方向に向かえば、幸せとはかけ離れていきます。必要以上に心配性にならないためにも、心を整えておく必要があるのです。

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