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【対談】養老孟司×岡本裕一朗 「AIは本当に“役に立つ”のか」



2020年11月18日 公開

養老孟司(解剖学者),岡本裕一朗(哲学者)

養老孟司氏、岡本裕一氏による対談

解剖学者・養老孟司と、哲学者・岡本裕一朗。異分野の2人が、AI化が今後の社会に及ぼす影響について考える異色対談。養老孟司と各界のトップランナーとの対談集『AIの壁 人間の知性を問いなおす』(PHP新書)より、内容を抜粋してお届けする。(構成・古川雅子)

※本稿は『AIの壁 人間の知性を問いなおす』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

AIの影響力は限定的

【岡本】AIに関して言いますと、私は際立って脅威を抱いているわけでもないし、礼賛もしていません。

もともとAIに専門的に取り組んできたわけではありませんが、自分の興味のある問題をいくつか考えたら、その中でAIの問題に行き当たったということでいろいろ調べたり発信したりし始めたのが関心を持ったきっかけです。そうしたら、出版社からAIに関する本を書いてくれと機会をいただいて。

私がAIを考えるとき「人間とAIとは、どこが違う」、あるいは「どこが同じ」といった表現を使ったりします。全部同じであるはずがないし、全部違うわけもない。だから「どこに焦点を当てるか」という視点が大事だと思っています。

社会の言説を眺めていると、ことさらに脅威を煽っているような論も見かけるし、「こんなすごいことだってできちゃいますよ」という論についても洪水のような情報がある。哲学の立場からは、「もうちょっと落ち着いて考えてみませんか」という提案をしてみようというのが一つの狙いだったんです。

それと、ただ違いを導き出して終わりにするのではなく、逆に言うと「人間がやっていることは一体何なんだ」という点をあぶり出したいなと。

だからあえて戦略的に「この話だったらAIもできるんじゃないか?」と問いかけをすることで、「人間のやっていることが果たしてどれぐらいのものか」が見えてくると考えました。そうすると、当然批判もたくさん出てくるだろうから、どんどん批判もしてもらおうと。

【養老】AIが仕事を奪うって言って、みんな戦々恐々としているけれど、そもそも僕は「AIって、本当に社会の役に立ってるのか?」と疑問に思っている。

社会へのインパクトを客観的に測ると、AIそのものは、それほどまだみなさんに大きな影響を持っていないんじゃないかと。技術として非常に進んだのは、むしろ通信の方ですよね。電話から始まり、ネットが出てきて、通信の発達が世の中をガラリと変えたのは間違いない。

【岡本】そうですね。AIの影響力は今のところ、限定的です。

【養老】じゃあAIを何に使えば有効かなと考えてみるとね、虫を分類させようかなと思って。僕、よく似た虫をいっぱい集めていてね。

採取した地域ごとに微妙に種類が変わるので、AIに判別させたら、僕とAIのどちらの方が能力が高いかがわかりますよ(笑)。そういうテーマは利害関係が何もないから、実験としては面白いかなと思って。

虫の脚なんかね、みんな同じように見えても、微妙に違うことは確かなんです。それをどのぐらいコンピュータが判別してくれて、「これは種類が違いますよ」とか、「違いません」とか言ってくれるかなと。

【岡本】果たして、どこまでわかるでしょう。興味深いですね。

【養老】でも、こっちが教師になってコンピュータに教えて育てなきゃならないとすると、面倒くせえなと思って。それなら、人間に教えた方が、まだましじゃないか、とも思うけれどね。

 

優しいロボットと意地悪な人間、どちらに介護されたいか問題

【岡本】私は自分の本で「AIは、理性主義から経験主義へと舵を切った」と述べているんですが、AIは人間の知性にどこか近づいてきたという感触はあるんですよ。ただこれは、基本的にディープラーニングとか機械学習のことを指して使った表現で、指している範囲は限定的です。

もともと、私はこの話をするときに、「グーグルの猫」をよく引き合いに出すんですが、画像認識に関して未だに謎だなと思っていることがありましてね。何千万枚とか単位はわかりませんが、数多の画像をランダムに見せたら、グーグルの巨大頭脳が猫を認識したみたいに言われているわけですね。

しかし、考えてみれば、AIに限らず人間だって、まったく無秩序に画像を見せられたときに、何の示唆も与えられないで、闇雲に見る経験だけで猫を認識することはできるのかという疑問がある。

【養老】その話はね、僕も長いこと疑問に思ってきた。これ、昔からある謎で、哲学者も問題にしたと思うんですけど、人間の子どもがね、「ワンワン」と「ニャンニャン」って言葉で言うと、視覚的な情報と結びつけてぱっと覚えちゃうんですよ。

これは、どうも遺伝的に、ああいう身近な動物は区別ができちゃうんじゃないか、という意見があります。特に犬猫みたいな近しい存在については、人間にはあらかじめ概念の枠ができているんじゃないか、と。なぜなら、特定の脳障害があると動物の区別がつかなくなると言いますから。

だからAIを使って画像を解析して、その中で「猫」と振り分けているのは、我々がやっているプロセスとは何かが違うという可能性が高いんです。普通の人はね、「猫」という定義があって、それに近づけていくんだと思っているんですが、おそらくそうじゃない。

【岡本】そうじゃないですね。私が、「AIは経験主義に舵を切った」と言うのは、学習の仕方を変えたという意味合いで言っていることでして。当然、経験からすべてわかるわけじゃなく、やはり、何らかの形での人間の介入が行なわれているはずだという側面も含んで言っているんです。

【養老】「AIが人間の大脳に近づいた」という話だって、脳の分野から言うと、一部の機能限定の話ですよね。0か100かみたいな発想でAIを捉えると、ちょっと危うい。典型的な例が、介護ロボットだよ。介護する人が要介護の人を起こしたり寝かせたりするときに、腰が痛くならないようにパワースーツみたいなものを着るとか、そういうのはいい。

でも、介護ロボットにすべてお任せみたいな発想は、僕なんかは御免だね。いくら優しくても、ロボットに介護してもらいたいとは思わないです。やっぱり意地悪な介護士でも人間の方がいいよね。

「あの野郎」とか、「こんちくしょう」とか思ってるのが、生きているっていうことだから。それが、コンピュータに変なことをされて「あれはバグです」って言われて済まされたら、面白くもおかしくもねえ(笑)。

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