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“スピード”だけで成功する時代が終わる? 変化せずに生存する「生きた化石」戦略

2020年11月26日 公開

稲垣栄洋(生物学者・植物学者)

 

生きた化石の「老舗戦略」

もっとも「生きた化石」と呼ばれる生き物たちが、まったく進化していないわけではない。害虫として忌み嫌われているゴキブリやシロアリも、古生代からその姿をほとんど変化させていない「生きた化石」である。

しかし、古生代の森などとっくの昔になくなってしまったのに、現代の人間の住居という新しいニッチを手に入れて、滅びに瀕するどころか、ますます繁栄する勢いだ。 こうして、生きた化石と呼ばれる生き物たちも、時代に合わせて進化をしているのである。

ゴキブリを例に出した後に紹介するのは、はなはだ不適切だとは思うが、この生きた化石の戦略は「老舗の和菓子屋」を思わせる。

老舗の和菓子屋は、百年前や千年前のお菓子をそのまま作っているわけではない。人々の味の好みや材料は、時代によって大きく変化していくからだ。 だから、老舗と呼ばれる店ほど、時代に合わせて味を変えていく。

変えるべきところは、それを変えなければならないし、変えてはならないものは変えてはならない。味が変わっても、変わらないもの。老舗と呼ばれる店では、それが家訓や社是ではないかと私は思う。

老舗の家訓とはどんなものだろう。 室町時代から続く塩瀬総本家の家訓は「材料落とすな、割り守れ」である。材料をケチることなく、配合を守りなさいという意味である。レシピを守れということではなく、質を落とすなということなのだろう。 

老舗と呼ばれる企業の中には、主力商品を変える企業も多い。中には、長い歴史の中で事業の内容そのものを変えてしまう企業もある。そんな老舗企業の八割以上には代々伝えられた家訓があるという。 変わるためには、変わらないことが必要である。 家訓は、その「変わらないこと」なのかもしれない。

 

進化しなければダメなのか?

38億年の歴史の中で、生物は競い合って進化を遂げてきた。

最初は小さな細菌のような単純な単細胞生物であった。やがて、単細胞生物が集まって多細胞生物となり、さまざまな形を作るようになった。こうして小さな小さな単細胞生物から、高度な機能を持つさまざまな生物が誕生したのだ。 

しかし、単純な構造を持つ単細胞生物は、現在でも滅んでいない。それどころか、地球のありとあらゆるところに単細胞生物は存在している。

8000メートルの上空でも単細胞生物は 発見されるし、水深1万1000メートルの深海まで分布している。スプーン一杯の土の中には数億とも数十億ともいわれる微生物が存在すると考えられている。お酒やヨーグルトを発酵させるのも微生物である。

その数は、何百万種とも、何千万種ともいわれているが、私たち人間は細菌や真菌などの単細胞生物がいったいどれくらいの種類がいるのか検討さえつかない。

彼らは、より大きく、より複雑になる生物の進化に抗い、シンプルで単純な形を守り続けてきた。 単細胞生物の持つ遺伝子は少ない。少ない遺伝子をコピーして速いスピードで増殖することもできる。

また、少ない遺伝子を速やかに変異させて、あらゆる環境の変化に適応することも可能である。多くの生物が生まれ、滅んでも、バクテリアはずっと核を持たない単細胞生物のまま、変わらずにいた。

彼らは進化の落伍者でも敗者でもない。単純でシンプルな形とスタイルを選んだ成功者なのである。

高度に発達した大企業やグローバル企業が、激しい競争や時代の変化の末に倒産をしていく中で、昔からある町の小さな駄菓子屋さんがそのまま残っていたりすることもある。

いったい、何をもって成功といえばいいのだろう。 成功しても成功しても、進化し続けなければならない。本当にそうなのだろうか。 生き残ることが勝利なのだとすれば、バクテリアは間違いなく成功している生き物と いっていいだろう。

 

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