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社会

IT企業が“在庫を抱える”という恐怖…それでも出版に挑戦した理由

大槻幸夫(サイボウズ株式会社),⼤塚啓志郎(株式会社ライツ社),井上慎平(株式会社ニューズピックス)

2020年12月18日 公開 2022年08月09日 更新

 

書店の棚には“メディア”としての価値がある

(大槻)あとは、いかに情報を伝えていくかという流れを考えたときに、“本が好きな人”は、つまり“情報が好きな人”ってことなので、情報を情報が好きな人に届ける手段としてベストマッチなわけです。

本好きのコミュニティに届けると情報がどう流れていくかっていうイメージできるので、コミュニケーションとしてメリットに感じるんですよね。

(井上)同じ1PVでも重たいし、本を最後まで読むのって3時間くらいかかる。その紆余曲折を追ってくれるのは、他メディアにない本の良さかなと。

(大槻)やっぱり、ネット系の方と、本を読む方には属性の違いもあります。ネットは、パパパッといろんなメディアをザッピングして広く浅く見ていく方が多い。

一方で本は、1つに集中して深く読まれる方が多いと思うので、ブログでも感想が出てきやすいんですよね。「サイボウズの本を読んでこういうふうに思った」っていう考えをnoteに書いていただいたり、今までリーチできなかった方々に届いている感じがわかる。

(井上)サイボウズ式ってめっちゃ有名なメディアであっても、リーチできなかったお客さんって居たんですか。

(大槻)この辺ってなかなか理解いただけないんですが、サイボウズの事業が伸びてるのは、地方のネットやITに詳しくない人たちにも届くような努力をずっとしてきたところにあります。

地方の販売会社さん、パートナーさんとつながって、地道にサービスの使い方を伝えたり、公民館でセミナーをやったり。

サイボウズ式って、多くても月間20、30万ページビューくらいで、そこで届かない人っていうのは圧倒的に多いんですよね。

(井上)それを聞くほど、全国にある本屋さんの棚のメディアとしての価値ってすごい。

ちょっと気になったんですが、サイボウズ式ブックスの企画は大塚さんが考えられてる? それとも「こういうテーマをどういうかたちで本にできますか?」みたいな相談がサイボウズさんからある?

 

紙でもWEBでも「コンテンツを生む力」が企業に問われていく

(大槻)企画はサイボウズ発信ですね。サイボウズ社員がこういうことをやりたいって企画を立てて、それを随時大塚さんと相談しています。

(大塚)サイボウズがおもしろいのは、サイボウズってよく広告が話題になるじゃないですか。最近だったら、「がんばるな、ニッポン」。あれに近い企画が、同時に書籍として走っていたりするんです。

(大槻)「頑張らなくてもいい、社員が我慢しなくてもいい組織を作るには」っていう本の取材も始まっていたりします。企業広告と本が、結果シナジーしてるのがすごくおもしろいです。

(井上)点ではなく面でやっている感じ。“広告”があって、それを伝える“オウンドメディア”も立ち上げて、じゃあ“紙”もやるかって。伝えたいことは1個だけど手段はいろいろ変えられる。

(大槻)そこがずっとこだわりです。代理店に考えるところからお任せするのは絶対にやめようと。社員が必ず企画を考える。世の中の流れを感じて、僕らの伝えたいことは何か考えることにこだわってきました。

その流れが今回の出版事業にも結びついています。面白いのが、アイデアが本になるときの状況を、経営陣や人事、採用の人たちまで、みんな共有しているので全部つながっていきます。

例えば、こういう本が出るから同じテーマで採用イベントやってみようとか。ここがさっき井上さんの言った、“面”という話ですね。企業出版をやるならば、そこまでしゃぶりつくせるか(笑)

ミッションに紐づかず、シナジーも生まれず、まぁとりあえず本でも出してみるかというレベルだと、悲惨な結果に終わりますよね。

(井上)お話し聞いていると、ひと昔前(バブル時代)の「企業×出版」と明確に違う気がします。出版がブイブイ右肩上がりだったときって、企業が出版もやってみようという話はビジネスの観点だったと思うんですよね。

それが、出版業界が傾いてきて、ビジネスとしてはしんどくなった。逆に今、サイボウズ式ブックスさんが注目を浴びてうまくいっているのは、時代が変わってきたというか。同じ企業出版でも、3、40年前とでは全く目的が違うんですね。

(大槻)さらに言えば、製品、本業のサービスを売ることにも意味があって。コロナで、よりIT化されてSNSが発達していく中でリアルな営業マンの力だけじゃなく、どれだけネット上にコンテンツをばら撒いているか、というのが大事な営業力として問われる時代になってきています。

出版に限らず、“コンテンツを生み出す力”を企業が持っているかが大事だと感じています。

たとえば「テレビCMをやる」って言ったときに、最後のアクションが「検索してください」では届かない人がいるんですよね。それが、「お近くの書店でお求めになれます」ならものすごく敷居が低いし、そこからお客さんとの接点を継続できるってこともあると思います。

その途端に、「これ、営業ツールとしてめちゃくちゃ意味あるね」ってなると思うんですよね。

ただ、やればいいってものじゃなくて、そこにインパクトやニュース性だったり、トレンドに乗せたりっていう、企画力がないと意味が無いんでしょうね。

(井上)あくまで本っていうかたちにこだわるなら、やっぱりマーケットと合わせる編集力もいりますね。

(大槻)まさに。どうしても企業が作る本って、普通に製品パンフレットを本に…(笑)「できるkintone!」みたいな感じになっちゃう。そこからいかに逃れられるか。

(井上)それは奇跡的なバランスが必要だと思います。

 

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