事上磨錬~仕事のなかで自分を磨け! 中国古典で洞察力、先見力を身につけよ!
2012年02月08日 公開 2024年12月16日 更新
勝たなければ生き残れない――古代から不変の真理として存在しているが、変化の流れが激しい現代では、生き残ることがより一層難しくなっている。勝つためにリーダーは何をすべきなのか…中国文学者・守屋洋氏はそのヒントは中国古典にあると語る。
※本稿は守屋洋著『勝つためにリーダーは何をなすべきか~中国古典の名言に学ぶ』より一部抜粋・編集したものです
人はすべからく事上に在って磨錬し、功夫 を做すべし。乃ち益あり
〔『伝習録』下巻〕
洞察力や先見力を身につけるためには、「歴史に学べ」「古典に学べ」と言いました。しかし、それだけではまだ十分とはいえません。
この上何が必要なのかと言いますと、ここに引いた言葉がそれを物語っています。わかりやすく訳してみましょう。「人は毎日の生活や仕事のなかで自分を磨かなければならない。そうあってこそ初めて効果があがるのである」 というのです。
これは、陽明学を唱えた王陽明という人が語った言葉です。この言葉から「事上磨錬」という有名な四字句が生まれたことはよく知られています。
ご承知のように、陽明学はなによりも実践を重視した思想として知られています。むろん陽明学といえども、歴史に学ぶことや古典に学ぶことを軽視しているわけではありません。しかし、それらにも増して重視したのが、実践を通して自分を磨けということです。
そういうなかから「事上磨錬」という四字句が生まれてきたのですが、いかにも実践重視の陽明学らしい言葉ではありませんか。
実学を離れた学問は空学問だ
この「事上磨錬」ですが、大切なことなので、もう少し、王陽明の語ることに耳を傾けてみましょう。
あるとき、下役人をしていた弟子の一人がこんな感想をもらしました。
「先生はたいへんすばらしい学問を教えてくださいますが、なにしろ私は、帳簿の整理や裁判の審理に追われて、それを実行する暇がありません」
これを耳にした王陽明は、こう語っています。
「私は君に、帳簿の整理や裁判の審理など、日常の仕事を離れて抽象的な学問をせよと教えたことは、一度もなかったはずだ。君には役所の仕事があるのだから、その仕事に即して学問すべきである。たとえば、事件を審理する場合を考えてみよう。相手の対応が礼にはずれているからといって、腹を立てるべきではないし、逆に相手の言うことが如才ないからといって、うかつに気を許してはならない。
また、相手がまわりから手を回しているからといって、へんに意固地になってもいけないし、逆に、柏手の要請に屈して、便宜をはかってやるようなことをしてもいけない。
さらに、煩雑で面倒な仕事だからといって、かってに手を抜いていい加減な処理をしてはいけないし、まわりが非難中傷するからといって、それに引きずられて、処分を決めたりしてはならない。
帳簿の整理や裁判の処理といえども、すべてこれ実学でないものはない。それらの仕事を離れて学問をしようとするのは、役に立たない空学問になってしまうのがオチである」
こう語っています。
つまりは「本を読むだけが勉強ではない。仕事のなかで自分を磨け。それも立派な勉強なのだ」ということであろうかと思います。