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事上磨錬~仕事のなかで自分を磨け! 中国古典で洞察力、先見力を身につけよ!

守屋洋(中国文学者)

2012年02月08日 公開 2022年09月05日 更新

 

カンは経験を積むことで磨かれる

ただし、仕事のなかで自分を磨けといいましても、毎日の仕事というのは、よほど激しい変化にでも見舞われないかぎり、同じことの繰り返しが多いものです。そういうなかに身を置いておりますと、どうしても惰性に流され、マンネリに陥っていきます。

そうなると、何も身につきません。

そうならないためには、常に問題意識を持ち、気持を引き締め、創意工夫をこらして仕事に取り組む必要があります。そうすれば必ず何かが身についてくるはずです。それを言っているのが、陽明学の「事上磨錬」に他ならないのです。

わかりやすい例をあげれば、たとえば、仕事のコツとか経営の勘です。こういうものは、いくら経営書のようなものを読んで理屈を詰め込んでも、それだけではダメです。また、人の話をいくら聞いても、それだけでは身につきません。

やはり地べたを這いずりまわり、時には悩み、時には苦しみながら、そういう苦労のなかでしか身につかないものです。つまり、現場のなかで苦労し、現実の体験に裏打ちされて、初めて血となり、肉となっていくのではないかと思います。

洞察力や先見力を磨くうえでも、同じことが言えるのではないでしょうか。

わずかな徴候から、風向きの変化を読みとり、「これはやばいぞ」と危険を察知して、患を未然に防ぐ能力というのは、たんなる理論のレベルを遥かに超えています。そういうものもやはり苦労のなかで経験を積むことによって磨かれていくのではないかと思います。
 

苦労の中でこそ人間力は高まる

苦労といえば、こんな話を聞いたことがあります。

もう亡くなりましたが、知り合いのなかに、易学、つまり占いですね、易学の理論を科学的に究明する、そんな研究をしていた人物がいました。
その人から聞いた話ですが、まだ易学の勉強を始めたばかりの若いころ、当時、名の売れていた易占いの大家を何人か訪ねてまわり、教えを請うたというんです。

ところが、話を聞いてすぐにわかったのは、どの相手も易の理論についてはたいしたことはなかった。厳しい言い方をすれば、素人に毛の生えた程度だったというのです。

しかし、少し話を聞いているうちに、これまたすぐにわかったことは、皆さんえらい苦労人で、これについては、一人の例外もなかったということでした。

私は占いというものに関心がありませんし、今の易者さんたちがどうなのかもわかりませんが、この話を聞いたとき、「なるほど、そうだろうな」と、妙に納得したことを覚えています。

人生の苦労をなめ尽くした人たちだからこそ、目の前に座った客の顔つきや様子を見ただけで、どんなことに悩み、どんなことに苦しんでいるのか、ピタリと見抜いて、適切な指示を下すことができたのでしょう。筮竹(ぜいちく)をじゃらじゃらさせるのは、もったいをつけるための道具立てにすぎなかったのかもしれません。

苦労することによって人を見る目も磨かれていくという話ですが、近ごろ心配なのは、恵まれすぎた不幸というのでしょうか、経営者でも若い世代は、苦労から逃げる傾向が見られることです。

「楽をしたい」、「楽しく生きたい」という気持もわからないではありませんが、それだけでは人間が磨かれていきません。土壇場になって物を言うのは、苦労のなかで磨かれた人間力なのです。

洞察力や先見力にしても、苦労のなかで磨きあげられていくのだということ。このことを決して忘れないでください。

 

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