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「郵便投票の逆転劇」の原動力…アメリカ大統領選の鍵を握った“福音派”



2021年03月02日 公開

松本佐保(国際政治学者)

 

トランプを支持した福音派の労働者階級と中流の白人たち

トランプを支持した福音派は、肉体労働に従事する労働者階級の白人や中流の下層の人たちである。白人の下流層から労働者階級は、グローバル化で衰退した産業、例えば鉄工業や石炭産業などに従事してきた。

いわゆる、イリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニアなどの「ラスト・ベルト(さびついた工業地帯)」の人々である。移民に仕事を奪われたという思いが強いことから、トランプの移民規制、例えばメキシコとの国境に壁を造るなどの政策に賛同した。

また、環境規制によりCO2を多く排出する石炭に厳しい目が向けられる中、トランプは環境問題には消極的だった。炭鉱産業などに従事する労働者らがトランプを支持するのは、自然な流れだったと言える。

また、アメリカではこのままヒスパニックなどの非白人の移民が流入し続けると、数年後には、白人が有色人種より少なくなるというデータがすでに出ている。

2016年の選挙戦略担当でその後暫くトランプの側近だったスティーブ・バノン、彼を担ぎ出したオルトラ・ライトと呼ばれるブライト・バード等の右派系団体が、それを脅威に感じている白人のメンタリティに訴えるのに成功した。

その結果、2016年の選挙では、実に81%の白人の福音派キリスト教徒がトランプに投票したと、11月9日米紙「ウォールストリート・ジャーナル」は報じた。さらにカトリックの52%がトランプを支持し、その支持率を押し上げた。スティーブ・バノンもアイルランド系米国人であり、労働者階級の保守的なカトリックだった。

 

白人の不満を取り込んでいったトランプの政策

バノンがホワイトハウスの主席戦略官だった期間は、こうした白人の不満を取り込むトランプの政策と、白人優位主義を掲げる右派団体との関係が取り沙汰された。

バノンとトランプの白人ナショナリズムとの関わりについては、国際政治学者、渡辺靖氏の近著(『白人ナショナリズム――アメリカを揺るがす「文化的反動」』中公新書)に詳しい。

著者自身も、2017年末のバノンの来日講演に参加し、質疑応答で質問し、彼が反グローバル主義であり、反中国であり、多国間より二国間外交を重んじることを確認した。

自らがブルー・カラー出身であることを誇りとし、反グローバル主義ゆえに移民に反対するのだというバノンが白人優位主義者かどうかは疑問だが、ナショナリズム的な考えはのちにトランプの政策に反映された。その後バノンは更迭、さらにメキシコとの国境に壁を建設する募金詐欺の疑いで逮捕された。

 

トランプの敗因はラスト・ベルトでの白人労働者の支持を失ったこと

その後バノンは更迭、さらにメキシコとの国境に壁を建設する募金詐欺の疑いで逮捕された。またラスト・ベルトでの白人労働者の雇用は、コロナ禍で期待したほど改善されなかった。

そうした状況を受けて、ペンシルバニアの中流出身であるバイデンが、アイルランドの有名な詩人の詩を引用するなど、アイルランド系カトリックの労働者階級の出自であるというレトリックをうまく使った。白人男性であることから、ヒラリーより労働組合のマッチョ文化へのアピール力もあった。

2020年の大統領選挙において、ラスト・ベルトでの郵便投票による逆転劇が起きた理由のひとつに、トランプが福音派の支持を失ったことがあると考えるのは大きな間違いではないだろう。



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