一切の性教育を受けなかった女性の「衝撃と苦悩」
2021年04月01日 公開 2022年10月11日 更新
どうすれば正解なのかがわからない
エリ(デボラの夫)がシャワーを浴びるあいだ、わたしはシャンパングラスを持って寝室に行き、ベッドサイドテーブルに置いた。片方のベッドには義母の手で安物のタオルが何枚か敷かれ、潤滑ゼリーも用意されていた。わたしは白いネグリジェを着た。
ベッドに腰かけてゼリーの蓋をあけ、豆粒ほどの量を手に取ってしげしげと眺めた。驚くほどひんやりしていて粘り気がある。新しいシーツを汚さないよう、タオルの上に腰をのせて横になり、冷たく透明なゼリーを丁寧に塗りこんだ。
やがて浴室のドアがあき、真っ暗だった部屋がほのかに照らしだされた。エリはタオルを腰に巻いていた。身体の輪郭を見るのは初めてで、不思議な気持ちがした。エリはぎこちない微笑みを浮かべ、花婿教室で教わったとおりわたしの上にかがみこみ、タオルを外した。あまりよく見えない。
両膝を緩めると、身体がゆっくり重ねられ、太腿の内側に硬いものが押しつけられた。思っていたより大きい。エリが薄暗がりのなかで不安げにわたしを見た。あちこちに彼のものを押しあてて反応を待っているようだが、わたしだってどうしたらいいかわからない。こっちにだって謎なんだから。
ようやくエリは狙いを定め、わたしもはじまるはずの挿入と放出に備えて腰を上げた。なにも起こらない。うんうんうなりながら何度も突きはするものの、なんの気配もない。そもそも、わたしにはなにが正解なのかもわからない。なにが起きるべきなの?
戒律の厳しい宗教的環境で育った結果
問題の解決法は探すとエリに約束したので、わたしはドクター・パトリックが紹介してくれたセックス・セラピストを訪ねた。セラピストは女性で、診察台でのわたしの落ち着かなげな様子を見て、問題は頭のなかにあると言った。
自分が思う以上に、身体は頭に支配されているのだそうだ。脳が指令を出せば膣は閉じ、無理に開こうと思っても、潜在意識のほうがわたしをよく理解していて、身体をコントロールする。
わたしの症状は膣痙というらしい。説明が書かれた本を渡された。それによると、戒律の厳しい宗教的環境で育った女性によくある症状だという。長年自分の身体と向きあってこなかったせいで、身体に背を向けられているのだ。
本によると、筋肉記憶と呼ばれるものがあり、それは歩いたり泳いだりする方法を身体が忘れないためのものだそうだ。脚の筋肉が歩き方を覚えると、よほどひどいトラウマを経験しないかぎり、その記憶は消えない。
同じように、いったん膣の筋肉に閉じろという指令が下されると、その記憶をリセットするのは難しい。だから頭と同じように筋肉そのものも納得させなければならないらしい。