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「ふざけるな!」と凄む男性から逃れ温泉地へ…苦難続きの経営者を支えた“愛犬の力”

伊藤眞寿子(「リトルモナ」オーナー)、吉澤恵理(医療ジャーナリスト)

2021年06月30日 公開 2022年07月05日 更新

「ふざけるな!」と凄む男性から逃れ温泉地へ…苦難続きの経営者を支えた“愛犬の力”

洗練された街、自由が丘で人気の犬と行けるイタリアンレストラン「リトルモナ」、オーナーは、伊藤眞寿子さん(58)。人気レストランとはいえ、コロナ禍での打撃は大きく、経営は厳しい現状だ。

「なんとしても乗り越えたいという思いで、国からの要請に従っています。ようやく実現した夢を守るために、耐える日々です」

リトルモナこそ伊藤さんが長年、描き続けた夢だ。

「子供の頃から犬と暮らしており、現在も二匹のトイプードルと暮らしています。私にとっては犬は、家族です。昔から犬と一緒に食事に行けたらいいいな...と思っていました。愛犬家の友人たちも同じように思っていることを知り、いつかそんなレストランを作りたいと思っていました」

実は、伊藤さんの人生は、その暖かい笑顔からは想像できないような苦労の連続だった。

 

アパレルから夜の世界へ

東京で生まれ育った伊藤さんは若い頃からファッションが好きで、進んだ道は文化服装学園、卒業後はアパレルに就職した。しかし、アパレルでは会社の服やバックを購入することが、暗黙のルール。当時の給与は一人暮らしも厳しいような額だったため、スナックのアルバイトを始めた。

「1週間に2日程度、ほんのお手伝いで始めたアルバイトでしたが、楽しく働けていて、なんとなく 私にあってる仕事だと感じていました。そんなある日、アパレルの会社で昇格することになったので すが、大好きだった洋服と触れることが少なくなり、全く仕事が楽しいと思えなくなり、悩んだ末に会社を辞めました」 

会社を辞めて間もなく、アルバイトをしていたスナックのオーナーに尊敬から恋愛感情を抱いた。 

「19歳上のオーナーがとても素敵に感じていました。好意を寄せるあまり、一心不乱に働きました。だけど、飲食店を複数経営していたオーナーは、女性にもモテましたし、とんでもない遊び人でした。報われないと思いその店を辞めたのが、32歳のときでした」

32歳になった伊藤さんだが、当時は、現在よりも就職には女性の年齢制限があり、すぐには仕事が見つからなかった。

「自立するために夜働こうと決め、恵比寿のバーに面接に行きました。実年齢を言って採用されなければそれまでと思い、『32です』と正直に面接を受けたところ、『いいわよ。今日から働く?』と言ってもらえました」

とはいえ、当時の夜の店で32歳といえば需要から外れる年齢だったこともあり、採用してくれた店には深く感謝し恩を感じた。伊藤さんの元には沢山の客が足を運んでくれたが、その多くが元オーナーの店の客だった。ある日、それに気づいた元オーナーが、伊藤さんが働く店に乗り込んできた。

「『ふざけるな!』とすごい剣幕でした。あの時は本当に怖いと思いました。元オーナーから逃れる ために妹が住んでいた名古屋に行くことを決めました。だけど、計画性があったわけでもなく東京 から離れたいという一心でした」 

 

中居として働くことで生まれた"自信"

妹が住んでいるからと名古屋へと向かった伊藤さんだが、気兼ねなくいていいという妹の言葉にも甘えることはなかった。

「妹の生活を邪魔してはいけないと思い、住むところと働くところ...どうしようかと考えていたところ、週刊誌を見ていたら名古屋から特急で15分ほどの温泉地で住み込みの中居ができると知 り、迷わず向かいました」 

そして、伊藤さんは、中居として働き始めた。

「自分が生まれ育った東京とは無縁の場所で中居として働き、『どこでも生きていけるな』って思ったら気が楽になりました。『一人で生きれる』という自信が沸いてきて、東京に帰ろうと思えました」

伊藤さんにとっては、東京が生まれ故郷。自信を取り戻して東京へと向かった。

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東京に戻り、必死に資金を集めて経営者に

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