惜しまれて辞める人材になる
仮に転職しなかったとしても、今の会社がずっと同じ状態であるとは言えません。どこに行っても常に何かが起きるくらいの心がまえでいるべきです。最初の転職で二社目に入り、徐々に慣れ始めた頃に「事件」が起きました。
私にこの転職の声をかけてくれた人と、遅めの転職祝いの食事会をしていたときのことです。「ちょっとメールを見る」といってスマホを手にした彼が固まりました。そして言いづらそうに、ショックを受けた様子でこう言いました。
「買収された……」
「え?」
何を言っているのかわかりませんでした。実は私が転職した会社は規模や当時の業界の特性から「いずれ買収される可能性もあり得る」ということを入社前から聞いていました。
ですから、いつかはそういうときがくるかもしれないとは思っていたのですが、入社して数カ月というあまりにも早いタイミングでやってきたのです。しかも、「買収されるとしたらこの辺りでは?」と予想されていた会社とはまったく別の、想定外の企業からでした。
当時の社員は「あの会社に買収されるくらいなら辞める」と言っていたくらい、文化が違うところでした。中には、その買収された会社から転職してきたばかりの人もいて、「何のために転職してきたんだか……」と嘆いていたり、すぐさま「もう転職する」と転職活動を公言したりする人もいました。
周囲の反応を見聞きすればするほど不安に駆られ、私も転職して間もないけれど転職すべきだろうか?とすら考えました。入ってわずか数カ月にもかかわらず……。
実は、これが一度転職した人の陥りやすい思考でもあります。一度転職を経験すると、転職することがそれほど怖くなくなってしまうのです。「まあ、なんとかなるか」という感じで、気軽に転職してしまう。心理的ハードルがぐっと低くなるのです。
でも入社して数カ月。当然のことながら、成果など何も残していません。私は自分の仕事をしていく上でのモットーとして「惜しまれて辞める人材になる」を掲げています。これは、いい加減に仕事をしないという気持ちでもあります。
そしてこのモットーは一社目でのさまざまな経験を通じて、自分で決めたこと。この軸だけはぶれさせることはできません。それをしてしまうと気持ちよく送り出してくれた前の上司にも申し訳ない。この会社に呼んでくれた人、その呼んでくれた人を信じて私を採用してくれた今の上司にも申し訳ない。その思いが私を踏みとどまらせました。
転職に「想定外」はつきもの
席取りゲームのような合併の現実の厳しさを感じながら、とにかくこの会社の社員のためにという意識を強く持ちました。このときから「人の役に立つ」ことをベースにして仕事をするというスタンスがより一層培われたように思います。
いずれにしても、この「追い込まれた」状態が、余計なことを考えるのを放棄させました。自分の身はどうなるのか?転職した方がいいのだろうか?とじっくりと考える間もなく時間がすぎていったのです。
入社後の「想定外」は大概起きるものです。転職を数回繰り返していれば、経験値が高まり、そんなものだと割り切れるのですが、転職初心者だったりすると、入社後の「想定外」を逆恨みする人もいます。そして頭の切り替えができないまま、話が違うといって、次の転職に進む人も。
その「再転職」が結果として良かったとなることもありますが、多くの場合は、単なる「逃げ」となってしまいがち。転職して何も結果を残していない状況において、それが後々正しい選択だったといえるかどうかは正直難しいところです。
想定外のことや、入社前に聞いていた条件・環境が変わることは、どこに行っても起こり得ます。となると、ちょっとしたことで嫌だと思い、もっと良いところがあるはず、と転職を容易に考えて動くのは危険です。また同じことを繰り返す可能性が非常に高くなるからです。
もしくは、一度逃げて転職した先で似たような想定外が起きると、仕事そのものにやる気を失って、パフォーマンスが落ち、結果として自分から動くどころか、立場が悪くなり辞めざるを得なくなることすら起こります。
変化が激しい世の中ですので、変化をしないことは衰退でもあります。変化に対応している会社はそれだけ強いと言えるかもしれません。もちろん導入されると聞いていた制度やシステムが入らないなど、変化とは違ったマイナス方向の「想定外」もありますが、これもどこの会社に行っても同じこと。
その辺りは、しょせん「会社だから」と割り切り、少しでも良い部分に意識を持っていきながら、前に向かい、成果を出すことに集中する。それが転職した先で第一優先で意識すべきことでしょう。