終身雇用が保証されなくなりつつあり、しかも「人生100年時代」「70歳就業時代」と言われる今、40代・50代のビジネスパーソンは、これからのキャリアにどう向き合えばいいのか?
マンパワーグループ〔株〕シニアコンサルタントで、日系・外資系企業を問わず2000人以上のキャリア開発を支援してきた難波猛氏に聞いた。
※本稿は、難波猛著『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)の一部を再編集したものです。
自分のキャリアに対し、自分で責任を持つ時代
「新卒一括採用・年功序列型賃金・終身雇用」がセットになった「日本型雇用システム」の中では、「会社に職業人生を預ければ定年まで働ける」と考えることがある意味で当たり前でした。
新卒で就職した会社で、会社が決めた人事異動や辞令を受け入れながら、多少の不満や葛藤はあってもそこで定年まで勤めあげる。これが一般的なキャリアパスだと多くの人が考えていたかもしれません。この文脈では、キャリアの主役(主導権)は「会社」でした。
しかし、右肩上がりの経済成長と企業の継続的発展を前提とした「日本型雇用システム」の運用が難しくなってきたことを、2019年に経団連の故中西会長(当時)、トヨタ自動車の豊田社長などが警鐘を鳴らし始めました。実際、2019年から2021年6月時点で上場企業178社が40代・50代を中心に4万人以上の希望退職・早期退職を実施しています。
このような措置を実施する企業は、別に血も涙もない冷酷な会社ではありません。
実際に何社もの人事責任者たちとコンサルティングで話を聞くと、経営者も人事も苦渋の決断として、厳しい環境下で会社が存続・成長するために悩みや葛藤を抱えながら、社員へ経済的な支援ができる余力があるうちに、難しい意思決定をしています。
「会社がキャリアの主役」だった時代が、良くも悪くも戻ってくる可能性は低いと考えています。
「自分がキャリアの主役」として、各々が自分のキャリアに対して責任をもたなくてはいけない時代に突入している自覚を持つ方が現実的だと思います。
確かに厳しい側面もありますが、見方を変えれば、「自分の考えたキャリアを自分で実現できる時代」「生涯現役で、会社の枠組みに縛られず働ける時代」と前向きに捉えることもできるでしょう。
キャリアの語源は、ラテン語の「carrus(車輪の付いた乗り物)」や、フランス語の「carrière(馬車の轍)」と言われています。
ここから転じて、研修などで私はキャリアを「職業人生の轍・道のり・旅・物語・作品」というメタファー(例え)として解説し、考察してもらいます。
「今までの仕事の轍を振り返って、どんな感想を抱きますか?」
「これからの職業人生を、どんな旅にしていきたいですか?」
「自分が主演・脚本・監督を務める作品を、どんなストーリーにしたいですか?」
「職業人生を締めくくった時に、どんな景色を見たいですか?」
このような問いに対し、自分の希望をある程度自由に描き、実際に実現できる可能性が出てきた「自分がキャリアの主役」という時代は、悪いことや厳しいことばかりではないと信じています。
「変化し続ける力」と「学び続ける力」
「自分がキャリアの主役」「自由にキャリアを描ける」と言っても夢見るだけでは何も実現しません。実際には「やりたいことを実現する力」「構想を具現化する戦略」は必要です。
今後の働く世界で、自分の「ありたい姿」を実現するための重要なスキルは、「変化し続ける力」と「学び続ける力」だと考えています。ここでは、2つのスキルを深掘りします。
「変化し続ける力」ですが、今後のキャリアに関して「世の中は変化し続ける」「自分の今のスキルは、いずれ陳腐化する」という前提を持っておくとよいと考えています。
ミドルシニア社員と話すと「今までの経験を活かせる仕事が分からない」「長年同じ仕事をやってきたので、新しい仕事や職場で働くことが不安」という声が出ます。
そういう時に、私は「今までの経験だけを取り崩しながら、10年・20年働けるほど甘い世界は多分ない」「遅かれ早かれ、新しい仕事に取り組む可能性は高いので、その不安を払拭するためには、後ろに下がるより1秒でも早く前に出て変化する方が良い」という、かなり身も蓋もないシビアな回答をしています。