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借金大国の通貨(アメリカ・ドル)が世界の基軸通貨であり続ける理由

大村大次郎(元国税調査官)

2022年03月15日 公開

 

アメリカ・ドルを守るアメリカ軍

現在のアメリカ経済というのは、非常に不安定な状況が長い間続いている。アメリカは現在、14兆ドルの対外純債務を抱える世界最大の借金国である。

しかも、この状態はもう50年も続いている。

なぜこのアメリカが破綻しないでいられるのか?

なぜ借金まみれのアメリカが、世界経済の中心に居座っていられるのか?
その最大の理由は、アメリカ・ドルが世界貿易の基軸通貨となっているからである。

世界貿易の決済では、ドルが使われることが多い。

たとえば、日本がアラブ諸国から石油を買うときも、ドルが使われる。日本やアラブに限らず、世界中の貿易決済でドルが使われている。

「ドルが基軸通貨である」ということは、今のアメリカ経済の生命線ともいえるのだ。

もし、アメリカ・ドルが基軸通貨の地位を失えば、たちまちアメリカ経済は破綻してしまうだろう。

だからアメリカは、このドルの基軸通貨の地位を、必死に守ってきた。時には、軍事力を用いることもあったのだ。

アメリカはソ連無きあと、世界最大の軍事国家となった。もちろん、他の国々は、アメリカの軍事力に対する怯えや遠慮がある。

アメリカ・ドルが、基軸通貨であり続けられるのは、そのためでもあるのだ。

たとえば世界の石油取引というのは、ドル建てで行うという暗黙の了解がある。

そこには、アラブ産油国とアメリカの密約があるとされている。

「アラブ諸国は、石油取引をすべてドル建てで行う代わりに、アメリカはアラブ産油国の政権を脅かす勢力を撃退する」

そういう約束があるということである。

実際、アラブ産油国の多くは民主国家ではなく王権国家なのだが、アラブ王権国家がアメリカから攻撃されたことはない。アメリカは、他国を攻撃するときに、「非民主的だ」ということを口実にすることが多いが、アラブの産油国は世界でもっとも非民主的であるにもかかわらず、アメリカからの軍事介入は受けていないのだ。

また、アメリカ・ドルが、基軸通貨であり続けているのは、アメリカの国債が買われているからでもある。アメリカ国債が様々な国で買われているので、ドルの信用も維持されているのだ。

では、アメリカの国債は誰が買っているのか、というと、一番の顧客は日本なのである。日本は、外貨が貯まるとアメリカの国債を買う。そして、アメリカの国債をなかなか売らない。それは、アメリカに対する遠慮があるからだ。

もし、アメリカの機嫌を損ねて、駐留軍を引き上げられてしまえば、中国や北朝鮮の軍事的脅威にさらされることになる。だから、日本はアメリカの機嫌をとっているのだ。

つまりアメリカは、「基軸通貨」「世界経済の中心」という地位を半ば軍事力で守ってきたともいえる。

そして、その地位を脅かす相手は、容赦なく叩いてきた。

 

フセインがアメリカに攻撃された理由

アメリカが、軍事力によって基軸通貨の地位を守ってきたということに関して、もっともわかりやすい例がある。

それは、イラク戦争である。

実は、巨額の対外債務を抱えるアメリカの通貨が、世界の基軸通貨になっていることについては、疑問を持つ国も多々ある。そして、ドルの基軸通貨の地位を脅かそうとする動きもあったのだ。

その最たるものが、ユーロだった。

ユーロは、EUの共通通貨だが、アメリカ・ドルに代わって、世界の基軸通貨になろうという野心も秘めていた。ドルとユーロは、実は基軸通貨の地位を巡って、綱引きを繰り広げていたのだ。

EUはユーロ導入前から金の保有量を着々と増やし、導入時にはアメリカの保有量をはるかに凌駕していた。これは、金の保有によってユーロの信用性を高めようとしたわけである。

もちろん、そこには「ユーロは国際通貨として使えますよ。ドルのような借金国の通貨を使う必要はありませんよ」というEUからの暗黙のメッセージがあった。

EU諸国としても、借金ばかりしているアメリカに、いつまでも世界の経済覇権を握られるのは釈然としていなかったのである。

それを敏感に察したのが、イラクのフセイン大統領だった。

1991年の湾岸戦争以来、イラクのフセイン大統領とアメリカは敵対関係にあった。

フセイン大統領としては、どうにかしてアメリカに一泡吹かせたい。

そこで、2000年の11月、フセイン大統領は、石油取引をドル建てからユーロ建てに変更したのだ。前述したように、アラブの石油取引というのは、ドルを使うのが暗黙の了解になっていた。そしてアラブの石油取引がドルで行われる、という慣習は、ドルの基軸通貨としての地位安定に大きく寄与していた。

そのアメリカのもっともデリケートな部分を、フセイン大統領は攻撃したのだ。それはアメリカにとっては大きなダメージとなる。

もちろんアメリカは激怒した。

ドルの基軸通貨としての地位は、絶対に守らなくてはならない。イラクの行為を許してしまうと、イラクにならいアメリカの脆弱なドルを嫌って、今後、ユーロ建てで取引をする産油国が続くかもしれない。

アメリカとしては、どうしてもイラクを叩く必要が生じた。

そのため、「大量破壊兵器を隠し持っている」と難癖をつけて、イラク戦争を起こし、フセイン政権を倒したのだ。アメリカは、イラク戦争でフセイン政権が崩壊するとすぐにイラクの石油取引をドル建てに戻している。
このイラク戦争だけではなく、アメリカがドルを防衛するために行ったと思われる戦争や紛争介入は、多々あるのだ。

このように、アメリカは軍事力を用いてでも、「基軸通貨」「世界経済の中心」の地位を守ってきたのだ。

 

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