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大谷翔平の打球はなぜあんなに飛ぶのか? 動作解析が見出したその秘訣

川村卓(筑波大学体育系准教授)

2022年05月19日 公開

 

投打のプレーを支える地道なフィジカル作り

・積み重ねられた努力が実を結んだ

スポーツ選手にとって急激な肉体改造や筋力アップは、メリットばかりではない。短期間で行うと大きな筋肉を中心に発達させることになり、そのほうが効率はいい。その一方で、例えばピッチングの場合には、肩甲骨を上手に動かすなど、細かい筋肉の動きが求められる。

そのため急激な肉体改造は、大きな筋肉を発達させる一方で細かな筋肉が使えるようにはなりにくく、結果としてプレーに必要な筋肉が損なわれてしまう。

大谷選手の場合は2021年やメジャーに行ってからではなく、日ハム時代から徐々に肉体強化を図っていった。そのため、ピッチングやバッティングに必要な筋肉を損なうことなく、テクニックとフィジカルを両立して進化させることができ、これまでの積み重ねが実を結んだ素晴らしい結果につながったと感じる。

・肉体を見つめ直す時間と紆余曲折の成果

2020シーズンと比べて大きく変化した部位はお尻やハムストリングスなど、体の後ろ側の筋肉である。これは短絡的な結果ではなく、「この部位は少し筋肉がつき過ぎてしまった」「つき過ぎた筋肉を落とそう」など、試行錯誤と紆余曲折を経て身につけていったと感じる。

さらにコロナ禍という状況において、十分に時間をかけて肉体を見つめ直す作業をしたことも、大きく影響しているだろう。

しかしシーズンの後半、疲労が出てしまった理由としては、もう少し機能的な小さな筋肉が必要だったのかもしれない。疲労によって機能的な筋肉の貯金がなくなったことが、バッティングで腰が引けるなどの筋力の減少として表れてしまったのだ。

これを防ぐためには、へたりやすい筋肉をどのようにして維持していくかが課題といえるのだが、大谷選手は誰も経験したことのないハイレベルなプレーを長期間続けているのだから、あくまでも一般論として述べることしかできないのだが……。

なおメジャーでは試合開催地を移動する際の長距離移動が多く、じっくりと筋肉を回復する時間は少ないのかもしれない。その限られたなかでも大谷選手は回復のためのトレーニングを取り入れていただろうが、やはり酷使する時間と回復する時間のつり合いが取れなくなるのは仕方がないことだろう。結局は思い切って休ませる日を設けることが、よいプレーを長期間継続していく大きなポイントになる。

 

大きなストライドとスライディング技術の高さが走塁の魅力

・塁間を10歩で走るストライド

大谷選手の走り方はストライド(歩幅)が大きい。ストライドが大きいイコール足が速いという単純なことではなく、塁間の30mくらいでは、ストライドが大きいとトップスピードに入らないままベースについてしまう。

それでも大谷選手の盗塁が成功するのは、先ほどの読みに加えて、スタート時の蹴り脚が強いことと10歩程度の歩幅で塁に到達すること、そしてスライディングの上手さなどが要因となっている。

足が速い選手の多くは、前に倒れるようにスタートを切る。体を前に倒すことによって強く地面を蹴ることができるのだが、大谷選手は極端に前傾をしないでスタートを切る。それでもスピードが出るのは、地面を蹴る動きが強くて上手だからといえる。

日本人選手の場合、塁間の歩幅はおおよそ12~14歩になるのに対して、大谷選手は塁間を9~10歩程度と、大きなストライドでの走り方に特徴がある。

ストライドが大きいとトップスピードに入る前に次のベースに到達してしまう。この走りが圧巻なのは3塁打時の2塁ベースから3塁ベースへの走塁時で、まるでカモシカのようなストライドの大きさで走っている。

2021シーズンの大谷選手は最多の3塁打を記録しているが、ストライドが大きいと距離が長いほうが加速するため、この走りが3塁打を生んだ大きな要素といえる。

・特徴的な長距離スライディング

スライディングの技術の高さも秀逸である。スライディングは減速要素になるという考え方から、最近はベースの近くで滑る(スライディングする)人が多い。元シアトルマリナーズのイチロー選手もお尻をつかず、膝だけで滑ることが多かった。

ところが大谷選手は真逆で、ベースからかなり離れたところからスライディングに入る。この理由は盗塁の成功率を上げることもあるが、ストライドが大きい走り方のため、ベースの近くで滑ると危険ということが大きいのだろう。

ベースは地面に固定されているため、加速した状態で脚や手が触ると衝撃や反発が強くなりケガにつながることもある。大谷選手はその危険を避けるために遠くからスライディングをしているのではないかと考える。ただし上の写真のように、スライディング時に左手をついてしまう。投打に重要となる手であるから、ケガには十分に気をつけてもらいたい。

 

 

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