大谷翔平はなぜMLBの歴史を変える成績を残せたのか?
46本の本塁打と156の奪三振以外にも、手術以降の地道な肉体改造やゲームのポイントとなった走塁を筑波大学体育系准教授・川村卓氏がスポーツ動作解析研究の視点から徹底解説する。大谷の魅力はバッティングとピッチングだけではない――。
※本稿は、川村 卓著『大谷翔平 2021年データブック 』(日東書院本社)を一 部抜粋・編集したものです。
両脚の使い方を変えて進化したバッティング
・打撃力の秘訣は"くさび"となる前脚
大谷選手のスイングを見ると、左膝からしっかりと動き(送り)、お尻がぐっと前に出ていく。同時にそのときに頭を残しながら、ダウンブローに入ってしっかりとボールを上げるという動きになっている。また左膝から動き出す際に右脚に十分なためというか、ふとももの絞りができていることも素晴らしい。
通常バットを振る場合には腰が回転していくが、その際に腰の回転につられて、多かれ少なかれ前脚のつま先もピッチャー方向に向いてしまう。これによって腰が逃げてしまい、力強いバッティングができないことが多い。
ところが大谷選手のバッティングを見ると、ユニフォームの前脚のつけ根にシワが寄っている。これは前脚がくさびのようになっているからであり、腰の後ろ側がしっかりと回転し、バットを通して大きな力をボールに伝えている。
・手術によって復調した左膝
大谷選手は2019シーズンに膝の手術を行っている。その症状は二分膝蓋骨。本来膝の骨(膝蓋骨)は子どもの頃に2つであるものが、成長して1つに融合する。ところが大谷選手の場合は、この骨が2つに分離したままになっていた。この手術後の大谷選手は、あまり膝の調子がよくなく、それが投打両方のプレーに影響を与えていた。それが、オフからの地道なトレーニングによって、左膝を前に送り出す動きがよくなり、2021シーズンの驚異的なバッティングを引き出したと考えられる。
2019シーズンと比べると、今シーズンは肩回りが回転せずに残っており、より大きなパワーをボールに伝えられるスイングに進化していることがわかる。
ボールに最大限のパワーを伝えるバッティング
・対応力を左右する両手でのフォロースイング
「バッティングとは何か」を突き詰めていくと「対応力」になるだろう。バッターは「ピッチャーが投じたボールにどう対応して打ち返すのか」が基本となり、対応力とは「どのようなボールが来てもきちんと処理ができる力」ということになる。
対応力の基本となるのは、強いスイングができることで「スイングスピードが速い(大きい)」ことと、「短時間でスイング動作に入れる」ことという2つの要素に分けられる。
そのような視点で大谷選手を見ると、フォロースイングまで両手でバットを握っている。これは腰の回転を中心としたスイングができているからで、この動きが対応力の高いバッティングにつながっている。
メジャーリーガーに多い腕力が非常に強いバッターは、両手でバットを持っていると手首が返ってしまってホールランの軌道にならない。それが大谷選手は胸郭の柔軟性が高く体幹などの可動域が広いため、両手でバットを持っていてもボールをスタンドまで運んでいけるのである。
・長い時間ボールを見られる
短時間でスイング動作に入れるメリットとして、長い時間ボールを見られることが挙げられる。極端な例になるが、長い時間ボールを見られると、「ここだ」という瞬間にバットを振れるのである。2021年第2号のようなホームランにつながる。
それから、対応力を上げるためには「強いスイング」が必要不可欠となる。この「強いスイング」をするためには、バットを扱える筋力や体幹の強さが求められるため、この点についても大谷選手の地道な肉体強化が実を結んだといえるだろう。