隣接する2市1町が、2016年に共同で入れた境界標。
駅や商業施設を貫通する境界線、3つの県が集結した「三県境」……。世の中には知られざるマニアックな県境が少なからず存在する。
100を超える県境スポットを実際に訪れ、そのややこしくも興味深い裏事情とともにまとめた書籍『県境マニアと行く くるっとふしぎ県境ツアー』から、実は全国に48ヶ所も存在する「三県境」の中から、比較的訪れやすいスポットを取り上げた一節をご紹介したい。(写真:田仕雅淑)
※本稿は、田仕雅淑著『県境マニアと行く くるっとふしぎ県境ツアー』(技術評論社)を一部抜粋・編集したものです。
【群馬×栃木×埼玉】平地の三県境
水路がそれぞれの県境。近年公園化されて見やすくなった。
三県境とは文字通り「3つの県が交わる県境」である。一般に県境は「線」で語られるが、それは2つの県の場合で、そこにもう1つ県が絡んでくると、県境は「線」ではなく「点」になる。
そういった三県境は全国に48ヶ所あるのだが、そのほとんどは高峰や河川の中など、人を寄せつけない場所にある。三県境を訪れるのはとても難易度が高いのだ。
しかし、こちらの「平地の三県境(最寄り駅から「柳生の三県境」ともよばれる)」は、人里の、しかも住宅と畑のある普通の平地に存在する。それこそスナック感覚で行けてしまう。
なぜそのような場所ができたのかは、隣接する渡良瀬遊水地に絡む河川工事に由来する。
元々はここに「渡良瀬川」と「谷田川」という埼玉県、栃木県、群馬県の県境となっていた川があり、そのふたつの川が合流する場所が三県境であったが、渡良瀬遊水地を造るにあたり河道の変更がなされ、川が陸地になり県境だけが取り残された。川の中だった三県境も陸地になったというわけだ。
「境界標石」「県名の入った標識」「県境を想像できる地形や境界線」など、筆者が考える「良い県境スポット」の要素というものがあるのだが、この場所にはその全てが詰まっている。
県境に興味を持っていただけて、最初にどこの県境スポットへ行こうかとお考えになった場合、筆者はまずこの場所をお勧めしたい。
この場所ができるきっかけとなった「足尾銅山鉱毒事件」と田中正造氏の苦労を思うと素直には喜べないが、マニアとしてはレアスポットが誕生したことに感謝を申しあげたい。