地震の発生確率を理解する~「地震報道」の正しい読み方(1)
2012年04月04日 公開 2015年12月11日 更新
《 『THE21』2012年4月号より 》
東日本大震災以後、さまざまな地震予測情報がマスコミを通じて流れているが、過剰な危機感をもつのも、慣れてしまって油断するのも問題だ。地震予測情報とは、いかにつき合えばいいのだろうか。
「M8クラスが30年以内に87%」ってどういうこと?
東日本大震災以降、さまざまな地震発生の予測に関する情報が発信され、マスコミで大々的に報道されています。これによって一般の国民は過剰な心配をしたり、逆に予測情報を軽視したりという正反対の現象が起きています。
私は地球科学を専門にしており、地震・津波・噴火のアウトリーチ(啓発・教育活動)を行なってきましたが、現在、皆さんからたくさんの質問をいただいています。疑心暗鬼になっている方々も少なからずいるため、ここではマスコミに飛び交っている情報を理解する際に必要な内容を厳選し、わかりやすく解説します。正しい理解をすることで、日本列島で3・11から始まった「大地動乱の時代」を乗りきっていただきたいと思います。
マグニチュードと震度の関係とは?
地震が発生すると直ちに「震度5弱の地域は○○」と発表されます。その後しばらくして、「マグニチュード7.2、震源の深さは30km」などという情報がテレビやインターネットで流れてきます。最初にこの説明をしておきましょう。
1つの地震に対して「マグニチュード」は1つしか発表されません。一方、「震度」は地域ごとに数多く発表されます。マグニチュードは地下で起きた地震のエネルギーの大きさ、震度はそれぞれの場所で地面が揺れる大きさを示します。したがって、マグニチュードと震度は、似たような数字でも、まったく異なる意味をもつのです。
いま大きな太鼓が1回鳴ったとイメージしてください。マグニチュードは、この太鼓がどんな強さで叩かれたのかを表わします。震度は、音を聞いている人にどんなふうに聞こえたか、ということです。
太鼓の音は、すぐそばで聞くと大きな音ですが、遠くで聞くと大した音ではありません。このように震度は、太鼓の音を聞く場所、つまり震源からの距離で変わってきます。1つのマグニチュードからさまざまな震度が生まれるのは、このためです。
東日本大震災はマグニチュード9の巨大地震でしたが、震源から遠ければ震度は小さくなりました。一方、マグニチュード6でも、自分がいる真下で起きれば非常に激しい揺れを感じます。「直下型地震」と呼ばれる危険な現象です。
地震の規模を示すマグニチュードとエネルギーの関係をみておきましょう。マグニチュードは、数字が1大きくなると、地下から放出されるエネルギーは32倍ほど増加します(図1)。マグニチュード7とマグニチュード8は、数字としてはたった1の違いですが、非常に大きなエネルギーの差となるのです。
東日本大震災以後、マグニチュード7や6の地震が頻発したため、私たちは地震の巨大なエネルギーに鈍感になっていますが、東日本大震災のときに放出されたエネルギーは、1923年の関東大震災の約50倍、また1995年の阪神・淡路大震災の約1400倍だったのです。図1から、マグニチュードの数値が示すエネルギー量の違いを、直感的につかんでいただきたいと思います。
地震発生確率とはどういうものか?
政府の地震調査委員会では、日本列島でこれから起きる可能性のある地震の発生確率を公表しています。地震調査委員会は文部科学大臣を本部長とする地震調査研究推進本部のなかにあり、全国の地震学者が結集して、日本各地で被害をおよぼす地震の長期評価を行なっている機関です。今後30年以内に大地震が起きる確率を、地震ごとにインターネットで公表しており、毎年更新されています。
日本列島では、太平洋や日本海で発生する「海の巨大地震」と、内陸にある活断層で発生する「直下型地震」の両方が問題となっています。
今世紀の半ばまでに、マグニチュード(以下、Mと省略します)8クラスの巨大地震が、高い確率で、東海から近畿・四国地方にかけての太平洋側で発生すると予測されています。「東海地震」が87%(M 8.0)、「東南海地震」が70%(M 8.1)、「南海地震」が60%(M8.4)という確率です。また、東京湾の周辺で起きる「南関東の地震」(M7クラス、70%)も差し迫っています。
さらに、内陸の活断層によって発生する地震としては、神奈川県西部にある神縄(かんなわ)-国府津(こうず)-松田断層(M 7.5)が、日本全体でも最大級の確率(最大16%)です。活断層で発生する地震は、海域の地震に比べると確率が低いと思われるかもしれません。しかし、地震は震源からの距離が近いほど揺れが大きくなるので、大都市の直下や隣接地域で起きる地震では莫大な被害が出ます。こうした直下型地震に突然襲われたときの被害の大きさは、阪神・淡路大震災で証明済みです。
東海地方から近畿・四国地方にかけては、先に挙げた東南海地震と南海地震が最重要です。これらの地震は名古屋・京都・大阪といった大都市に激しい揺れをもたらすでしょう。同時に、沿岸部を襲う津波にも警戒しなければなりません。たとえば、1944年の東南海地震と1946年の南海地震では、それぞれ1000人を超す犠牲者が出ました。
右の図は地震調査研究推進本部が発表した「地震動予測地図」です(クリックすると拡大します)。今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を、日本地図上に色分けして描いたものです。
これらを「確率が高い」(3%以上)、「やや高い」(3~0.1%)、「その他」(0.1%未満)と3つに分けて、生活に身近なものと比べてみましょう。
「確率が高い」とは、「交通事故で負傷(24%)」から「空き巣の被害(3.4%)」までを含む確率です。また、「やや高い」とは、「交通事故で死亡(0.2%)」から「火災で催災(1.9%)」程度の確率です。この数字をみると、「震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」というのが、決して低いものではないことが実感できるのではないでしょうか。
何よりも、「確率が高い」地域は全国の3割におよんでおり、日本列島はどこでも地震が起きることが、この図からわかっていただけると思います。すなわち、「大地震の被害を受けないで済む街は日本にはない」と考えたほうがよいのです。
もう1つ別の問題もあります。私はこうした表示自体がわかりにくいのではないかと危惧しています。たとえば、東海地震の「30年以内に87%の確率でM8クラスの大地震が起きる」という表現です。文系の知人は私に、「この文言では身近に感じられない」と語りました。もし「1カ月以内に99%の確率」であったならば危機感も募るでしょうが、30年では緊張が続かないというのです。
さらに、毎回このように脅されていたのでは、だんだん慣れてしまう、という問題も新たに生じています。頻繁に注意が繰り返されるために感覚麻痺が起き、いわゆる「狼少年」状態になってしまうのです。まさに「伝え方」、すなわちコミュニケーションの課題が、地震防災の根底にあるのです。