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生き方

「人づきあいが苦手」と悩む人ほど持っている“聞き上手な素質”

榎本博明(心理学博士)

2022年11月11日 公開

 

社交の技術より心を他人に向ける

不自然に社交的に振舞う者がいる。とってつけたようなお愛想や場違いの明るさをふりまく。本人も、「ちょっとわざとらしかったかな」「あの場面ではもう少し抑えるべきだったかな」などと反省しつつがんばっている。

自分に足りない面を伸ばす努力も大切だが、本来の性質に反する自分を演じ続けるのは疲れるし、相手にもどこか不自然な印象を与えるものだ。

現代のビジネス社会では、社交能力が求められる場面が多いが、社交上手の人がそうたくさんいるわけではない。周囲を見回してみればわかるはずだが、人とのつきあい方に頭を悩ましている者は非常に多い。

内向的人間としては、社交の技術は多少劣っても、他の方面で魅力的な人間をめざしたほうがよいのではないか。そのためには、ありのままの自分を受け入れることだ。

弱点を無視したり、無理やり反対の性格に見せようとせず、弱点とともに、それを他の性質でカバーしながら、生きる工夫をすべきだろう。

社交が苦手であることを隠そう、内面の不安定さをのぞかれないようにしようとするから、自然に振舞えない。無理して社交的に振舞っても、ぎこちなさのなかで疲れ、かえって人づきあいが苦痛になる者も出てくる。

人間関係に疲れ、逃避気味の者には、無理に社交家を装っている者が多い。最初から社交が苦手の内向的人間としてつきあっていれば、もっと自然に人々とつきあえたはずだ。

本来の自分の性質を曲げて無理をしている者は、相手をもくつろがせないし、それではなかなか親密になれない。社交家でないと人とうまくやっていけない、人から好かれないという思い違いから、かえって魅力をなくしていく。

人間関係がうまくいかない。社交が苦手で仕事に支障をきたすなどと言って、話術を身につけようとする者も少なくないようだ。

最近の話し方教室の隆盛がそれを物語っている。歯切れのいい話し方、明るい表情のつくり方、雑談の話題の選び方などを訓練するのは、それなりに効用があるかもしれない。

だが、表面的なテクニックを身につけたからといって、いきなり人と気持が通じ合うというものではない。

それより、他人に対してあたたかい関心を持つように心がけることが大切だ。対人関係が苦手な自分のことにとらわれすぎて、関わりのある人たちひとりひとりの生活や気持に対する関心が薄れているということがないだろうか。

視線が自分の内側に向かいやすい内向的人間としては、社交のテクニックよりも、心を他人に向けるように努めることが必要なのではないか。

 

対話のコツは「適度な相槌と傾聴」

対話というのは共同作業だ。話し手、聞き手という役割を随時交換しながら進めていく。共同作業であるからには、2人が平等に全く同じことをする必要はない。お互いに自分の得意技を存分に応酬しあえばよい。

もし口下手であるなら、無理してしゃべらずに、相手に対話の空白を埋めてもらえるようにしむける。相手に気持よく話してもらえるような聞き上手をめざすことだ。

内向的人間が対話上手になるためには、話術を磨くよりも聞き上手をめざしたほうが、はるかに近道だろう。

相手に話したいだけ話させてあげ、それをうわの空でなくしっかり受けとめて聞くというのは、とても忍耐を要する作業だ。

だが、これも修行のひとつと心得て忍耐さえすれば、すぐに上達する。他人より自分のことにとらわれがちな内向的人間には、他人の話をじっくり聞くことは、自分以外の人間にも興味を持つ訓練にもなる。

それに、忍耐強く聞いてあげると、話し手はとても喜ぶ。話すという行為には、カタルシス効果が伴う。どんなにたわいない話でも、思いのままにぶちまけると、気持がすっきりするものだ。聞き上手の有用性はまさにここにある。

多くの人間関係を能率よくこなさなければならない現代人は、自分の言いたいことをじっくり聞いてもらえる場に飢えているはずだ。

カウンセリングの隆盛がそれを裏づけている。カウンセリングの原則は、クライエントに思う存分話をさせることだ。

周囲を見回すと、みな忙しそうに動きまわっている。他人の話にじっくり傾ける耳など持ち合わせないかのようだ。そんな時代だからこそ、聞き上手が価値を持つのだ。

とにかく相手が気持よく話せるようにということを第一に心がける。そのためには、自分がしゃべりすぎないよう注意する。

そして、相手のペースに乗っかってみる。相手の話の腰を折るのは最悪だ。言いそびれたことばはいつまでも胸の中にくすぶり、すっきりしないものだ。

お互いに相手の話の文脈を無視して勝手に自分の言いたいことを言っているなど、たとえ形の上では交互にしゃべっていても、とても対話とは言えない。相手のことばをしっかり心で受けとめてからことばを継ぐことが大切だ。

気持よく話してもらうためには、相槌を打つのがよい。心理学の実験の結果、話の内容に関係なくとにかくうなずくだけでも相手の話す量が増すということがわかっている。

有能なセールスマンなどは当然経験的に心得ているはずだ。

適度な相槌と傾聴で相手に思う存分しゃべらせてあげるということを心がけていれば、いつのまにか対話上手になっているはずだ。

 

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