イラスト:タカハラユウスケ
増えつづける国の借金、増大する税の負担、円安に伴うインフレ懸念。
「日本は財政破綻してしまうのではないか?」
そんな声に明確なNOを突きつけるのが、経済アナリストの森永康平氏。
「国の借金は問題ない」「ハイパーインフレが起こる可能性も低い」との主張を展開する同氏は、大学4年生の中村くんとの対話形式で経済のしくみをレクチャーする新著『「国の借金は問題ない」って本当ですか? 〜森永先生! 経済ど素人の私に、MMTの基本を教えてください。』の中でその理由を解説している。
今回は同書より、政府が税収に関係なく支出できる理由、税金の役割についてわかりやすく説明した例え話「モズラーの名刺」の一節をご紹介したい。
※本稿は、森永康平著『「国の借金は問題ない」って本当ですか?〜森永先生! 経済ど素人の私に、MMTの基本を教えてください。』(技術評論社)を一部抜粋・編集したものです。
貨幣に価値が生まれる瞬間
イラスト:タカハラユウスケ
【森永】MMTの提唱者の1人に、ウォーレン・モズラーという人がいます。経済学者であると同時に、著名な投資家でもある人です。モズラーが租税貨幣論(課税によって政府が発行した貨幣に価値が生じるという論)を説明するために用いた、「モズラーの名刺」という例え話があります。
【中村】名刺? お金の説明をするのに名刺ですか?
【森永】そうです。なかなか興味深い例え話ですよ。まず、モズラー家という家庭があります。裕福な家庭で、それなりに広い家に両親と子どもたちが住んでいます。
モズラー家の自宅は広いので、掃除や手入れが大変です。そこで、モズラーは子どもたちに家事を手伝ってもらいたいと考えました。しかしなんの褒美もなしに子どもたちは手伝ってくれないので、「家事を手伝ってくれたら私の名刺をあげよう」と伝えます。
【中村】名刺って、子どもたちがほしがるものなんでしょうか?
【森永】お察しの通り、別にほしがりません。子どもたちにとって名刺はなんの価値もないもので、手伝いをさせられてほしくもない名刺をもらうよりも、手伝いをせずに遊んでいた方がずっと楽しいでしょう。
モズラーは、子どもたちに家事を手伝わせる方法を考えます。そこでモズラーは、「月末までに名刺を30枚集めて私の元に持ってきなさい。名刺は家の手伝いをしたら渡してあげよう」と子どもたちに告げました。「名刺を集められなかったら家を出て行ってもらう」という厳しい条件をつけて。
【中村】それは厳しい。でもそうなると、たしかに子どもたちも家のお手伝いをやらざるを得なくなりますね。
【森永】その通りです。家から追い出されてはたまりませんから、子どもたちは必死でお手伝いをして名刺を集めるようになりました。モズラー家の中で、名刺が価値を持った瞬間です。
イラスト:タカハラユウスケ
しばらくすると、興味深い現象が起こります。最初はお手伝いをしてモズラーから直接名刺をもらっていた子どもたちですが、次第にお互いが持っている名刺を使って取引をするようになりました。
例えば、兄が弟の代わりに宿題をやってあげるので名刺を5枚譲る、弟がお風呂掃除をするので兄が名刺を5枚譲る、といった具合です。
【中村】労働とお金の取引みたいですね!
【森永】宿題の代行や風呂掃除という労働の代わりに、名刺を支払う。まさしく「名刺がお金としての価値を持っている」と言えるでしょう。
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「名刺の量を適切に調整すること」は国家財政に似ている?