七夕の願いごと
「最悪の疑い」ではなかったようだ。
ボンビは獣医さんですごしている。プは朝と夕方に、獣医さんへ行く。プは外に出かけるとき、あんなにも服を着替えるのが好きなのに、毎日ずっとおなじ服を着ている。
何日かして、やっと帰ってきたボンビは、ひとまわりちいさくなっていた。すこしだけ食べて、すこしだけお水を飲んで、すこしだけトコトコと歩いては、「なにもすることがない」という感じで戻ってきて、出窓で眠る。目があっても、ほんのすこしわたしを見るだけで、すぐに目をとじてしまう。
せっかく帰ってきたのに、ボンビは何日かにいっかい、おなじ服を着たプに獣医さんへ連れていかれた。大嫌いなキャリーケースに入るときに精一杯「イヤだ!」と鳴くこともなく、玄関でキャリーケースから出るときもノロノロしている。
そんなボンビが思い出したかのようにわたしのお腹に顔をうずめてきたとき、耳のうしろをペロペロしてみた。しばらくすると、ちいさなゴロゴロがひびいてきた。
「今日は七夕だ」
プがちょっと、明るい声で話した。これはプがなにかを思いついたときの、明るい声。
「笹の葉も短冊もないけれど、一筆箋だったらある。ふだんは行事をさぼっているから、都合が良すぎるかもしれないけれど。天と星に祈る」
「たしかに都合が良すぎるかもしれないけれど。いっしょに書いてみよう」
プは一筆箋とやらをテーブルに並べて、ランとちょっとしゃべりながら、とくに迷う様子もなく書きおわると、壁にペタッと貼りつけた。
つぎの日はひさしぶりに、プはちがう服を着て、ボンビを獣医さんに連れていった。まえの日の夜、ランとプは、なにを書いたのかな。
いつもは「テーブルの上に乗っちゃダメ!」と言われるけれど、ランもプも、わたしを真似するボンビもいない。
テーブルまで一気には上れない。椅子に乗ってから、思いきってテーブルに上がった。ちょうど目とおなじ高さに、紙を貼った壁がある。
ボンビちゃんがたくさんゴハンを食べられるようになりますように
点滴のない生活に戻れますように
楽しい時間がいっぱいありますように ラン&プ
もういちまい、あった。
てんこちゃんがこれからもなんの病気もなく元気ですごせますように
猫又になるくらいのビックリする長生きでありますように ラン&プ
わかるような、わからないような。
でも「長生き」というものを、してみよう。じゃないと、ランもプもボンビも、困りそうだから。