毎日7時間しっかりと寝ているのに、目覚めは悪く、疲れもあまり取れていない...。そんな悩みを抱えていませんか? 睡眠専門医の白濱龍太郎さんが、長時間寝てもスッキリしない原因について解説します。
※本稿は、白濱龍太郎著『ぐっすり眠る習慣』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
忙しい人こそ、眠りはじめの「4時間」にこだわる
睡眠には大きく分けてレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があります。
レム(REM)とは睡眠中に起こる眼球の急速運動のことで、これが出現する時間がレム睡眠です。
身体は休んでいても脳は活発に動いていて、日中に得られた情報の整理や定着などを行っています。さまざまな情報が脳内で整理されることで、ストレスの解消効果もあります。また、夢を見るのもレム睡眠のときだけ。眠りが浅いので、光や音などの刺激で目を覚ましやすい状態といえるでしょう。
一方、脳と身体の両方が休んでいるのがノンレム睡眠です。
眼球運動も穏おだやかになって、すやすやと深い眠りについている状態です。眠りの深さによって4つのステージに分かれており、もっとも深い眠りのことを、深睡眠または徐波睡眠と呼びます。そしてこの深睡眠の有無が、睡眠の質を大きく左右するのです。
さらに、「眠りについてから4時間以内に、深睡眠がとれたかどうか」が重要になってきます。眠りに落ちてから朝まで4~5回ほど繰り返されるレム睡眠とノンレム睡眠のサイクルですが、もっとも深睡眠をとりやすいのは、実は「最初」と「2番目」のノンレム睡眠です。
「4時間以内に」と述べたのは、これが理由です。
ここで深睡眠がとれていれば、睡眠の質は保証されたようなもの。逆に、寝ついてからの4時間で深睡眠がとれていない場合には、いくら睡眠時間が長くても心身の疲労が取れず、目覚めもスッキリしたものにはなりません。
睡眠時間は足りているのに、眠りが浅くてどうもスッキリしない。そういった人は、自律神経が乱れている可能性があります。自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、夕方から夜やリラックスしているときには副交感神経が優位になります。
しかし、交感神経が優位で身体が緊張したままだと、うまく寝つけず、ぐっすり眠ることができないのです。
内臓などの体温である深部体温が、夜になっても下がっていない可能性もあります。人体には、深部体温が上がると活動が活発になり、下がると眠くなるという仕組みがあります。
夕方以降は深部体温が少しずつ下がっていって、やがて眠気が訪れるのですが、このリズムがなんらかの要因で狂うと、睡眠の質がどんどん悪くなります。
忙しくて睡眠時間がしっかり確保できないならば、睡眠の質を高めるしかありません。睡眠周期の最初に訪れるノンレム睡眠で、どれだけ深く眠れるかに全力を傾けるべきでしょう。
その場合、睡眠時間が短いことを気に病む必要はありません。長く眠れないことはもう割り切って、「自分はこれから深い睡眠をとるんだ」という気持ちで、焦らず眠りにつきましょう。短い時間でも、深睡眠がとれていれば睡眠の質は保たれます。
寝つきを良くするために、香りや音の力を借りて自律神経を整えたり、食事や入浴で深部体温を調節したりする方法もあります。
なによりも「体内時計を狂わせないこと」が大切
人間の体内時計のリズムから見ると、通常の生活で、14時と夜中の2時あたりがもっとも眠くなる時間帯です。そこから逆算すると、眠りにくい時間は、脳が活発に働く10時ごろからお昼近くまでと、18時から22時頃になります。
専門用語ではこれらの時間帯を「睡眠禁止帯」「覚醒維持帯」などと呼びます。この時間帯に眠るのは、好ましくありません。
わたしたち人間のみならず、地球上に存在するすべての生物には、生まれながらに「体内時計」というものが備わっています。これは、「ある時間帯にはこういうことをしたいと本能的に身体が欲する」という約24時間周期のリズムのことで、サーカディアンリズムと呼ばれます。
夜になると眠くなり、朝になると目が覚めるのは、サーカディアンリズムに起因しているのです。自律神経の働き、体温の変化、ホルモンの分泌なども、このリズムに基づいたものです。
このリズムを毎日リセットして調整してくれるのが、太陽の光です。サーカディアンリズムの周期は地球の自転周期よりやや長いので、これがリセットできないと、就寝時刻がどんどん後ろにずれてしまいます。
寝る前にスマホやテレビなどを見ると、画面から発せられるブルーライトが脳の松果体いという部位を刺激し、睡眠ホルモンのひとつのメラトニンの分泌を抑えます。
これが体内時計を狂わせ、「眠りたくても眠れない状態」をつくってしまうのです。乱れが悪化すると睡眠相そう後退症候群となり、朝起きるのが困難になることもあります。