クマの食べ物を全て試食
植物のタネは、最初はどれが何のタネなのかがまったくわからなかったが、タネの図鑑を見ながら種類を同定していった。
しかしそれでも自分の同定には自信が持てなかったため、4年生になってからは山にある果実を取ってきては自分で食べ、タネもくらべてみるということをした。野生のクマが食べるものはほとんど全部私も試食したと思う。
また、ウンコの中のタネをウンコを冷凍する前に何粒かとっておき、プランターなどに植えて発芽させ、本当にその植物なのかどうかも確かめてみた。こうして、どれが何のタネなのかを少しずつ覚えていったのだ。
クマの食べる果実や植物を自分で食べてみて思ったのは、クマはなかなかグルメだということだ。ただ、マムシグサだけはシュウ酸の刺激が強く、びりびりとした。それでもまずいものといったらそれくらいで、毒のある食べ物を食べずに済んだのは幸運だったのかもしれない。
それで、肝心の糞分析の作業はというと、とにかく退屈だった。ひたすら水を流してドロドロの部分を流していくだけだからだ。
このドロドロのせいで配管がしょっちゅう詰まるので、トイレのガポガポ(正式にはラバーカップとか通水カップという)でつまりを取らなければいけない。だから、非常に時間がかかる。
しかも、そのころ私が所属していた研究室には実験室がなかったので、糞分析はほかの研究室の実験室を借りてやらせてもらっていた。しょっちゅう配管を詰まらせるものだから、その研究室からはいつも嫌な顔をされた。糞分析をするのは肩身が狭くて憂鬱だった。
罠にかかったクマは鳥を食べる?
ときには、罠にかかって捕獲されたクマのウンコを分析することもあった。罠の中にあるウンコには鳥のクチバシのようなものが混ざることが多く、
「トラップにかかったクマって鳥を食べるんだなあ」と思っていたのだった。
ある日、同じ研究室の友達にそのクチバシを見せると、こんな指摘をしてくれた。
「それって爪じゃない? ネコの爪も研ぐと古いのが落ちるよね。クマも同じなんじゃないかな」
彼はネコと暮らしていたからすぐにピンと来たのだろう。私は飼ったことがないから全然わからなかったが、ネコの爪もクマと同じ鈎爪で、たくさんの層が重なっており、研ぐと古いものがキャップのようにぽろっと落ちて新しいものが押し出される。その鳥のクチバシのようなものも、同じなのではないかというのである。
果たしてそれはクマの爪だった。罠にかかったクマの中には、自分のウンコにまみれながら暴れ、ガリガリと罠の内部をひっかく個体がいる。そのときにはがれた爪がウンコに混じったのだろう。
研究室の仲間の指摘がなければ間違った分析結果を示しかねなかった。思い込みは危ないし、第三者の知見というのは貴重なものだと痛感したものだ。